はじめに
昨今、デジタル化が進んでおり、心臓病を患う方もスマートフォンを始めとした電子デバイスを使用されています。
中には、Apple watchなどのスマートウェアラブルデバイスを使用している人もいます。
私は、循環器内科専門医として、スマートウェアラブルデバイスに希望を感じています。
なぜなら、心臓の状態の把握のためには、外来の診察中のポイントの評価では不十分であり、患者さんの自宅での脈拍・血圧、そして日常生活で坂道を登ったりする時の脈拍・血圧などのデータが必要だと思っていたからです。
今日は、2021年にNATURE REVIEWS Cardiologyに掲載された総説の要約をすることで、心臓病の人に有効なスマートウェアラブルデバイスの最新技術についてまとめたいと思います。
総説のタイトルは「Smart wearable devices in cardiovascular care: where we are
and how to move forward」(⼼⾎管ケアにおけるスマート ウェアラブル デバイス: 現在の状況と今後の進め⽅)です。
NATURE REVIEWS Cardiologyは非常に権威のある雑誌ですし、本総説は2023年4月現在で218の被引用数があり、非常に影響力のある総説になります。
この総説では、スマートウェアラブルデバイスの心臓病の予防、診断、管理での応用について説明されています。
今回はその中でも、日常で患者さんが応用できそうな、脈拍と心拍リズムの計測、血圧の計測、スマートウェアラブルデバイスの心臓リハビリテーションへの利用についてまとめます。
スマートウェアラブルデバイスとは
スマートウェアラブルデバイスは、アクセサリーまたは衣服に埋め込むことができる消費者向けの接続された電子デバイスです。
これらには、スマートウォッチ、リング、リストバンドなどがあり、高い処理能力と多数の洗練されたセンサーを備えています。
米国の推定20%の住民が現在、スマートウェアラブルデバイスを所有していると言われています。
この技術を臨床現場に統合することはまだ始まったばかりですが、今後発展が見込まれいます。
脈拍と心拍リズムの計測について
健康な人々において、安静時の心拍数が高いと冠動脈疾患や死亡リスクが高くなることが示されています。
また、運動後の回復が悪い場合にも、心血管イベントのリスクが増加することがあります。
心電図や光電式容積脈波記録法を使用して心拍数と心拍リズムを測定することができます。
心電図は、心拍数と心拍リズムの測定のためのゴールドスタンダードです。
いくつかのスマートウォッチは、時計の側面にある負の電極を用いて、単極心電図を記録することができます。
単極心電図は心房細動のようにシンプルな不整脈を判定する事には有効ですが、
複雑な不整脈や心筋梗塞のような他の状態を正確に診断するためには、不十分な場合があります。
光電式容積脈波記録法は、皮膚の微小血液量の変化を測定することで脈波を生成し、心拍数を計算する技術です。
例えば、Apple watchの背中の部分から光がでていますが、あの光を利用して計測しています。
光電式容積脈波記録法の技術には制限があり、皮膚と直接接触している場合に最適な性能を発揮するため、ストラップで固定されたウェアラブルデバイスでは正確性が低下することがあります。
さらに、光電式容積脈波記録法センサーの正確性は、使用されるウェアラブルデバイスによって異なるため、注意して解釈する必要があります。
試験では、スマートウォッチよりも胸に装着するモニターの方がより正確であることが示されています。しかし、より多くの研究が必要であり、新しいデバイスについても検討する必要があります。
血圧の計測について
高血圧は死亡率や罹患率を引き起こす世界的な主要な原因の1つです。
消費者向けのウェアラブルデバイスに正確な血圧測定機能を組み込むことで、高血圧のスクリーニングを改善し、夜間や運動時の高血圧を特定することができる可能性があります。
デバイスの例としてOmron社のHeartGuide腕時計が上がれています。これは内蔵されたカフを使って正確な血圧測定ができる消費者向けウェアラブル機器の一つです。
ある研究では、実際にHeartGuide腕時計と通常の腕に巻く血圧計を患者さんに使用して、血圧の計測の精度を検証しています。
オフィスの環境下では、両者の収縮期血圧値の平均差は0.8 ± 12.8mmHg、外出先での環境下では3.2 ± 17.0mmHgであったと報告されています。
±の後の数字は標準偏差ですが、この値が大きいので、研究結果は個体差が大きかったという事です。有効な人いるでしょうが、あまり有効ではない人もある程度いそうですね。
また、カフを用いずに、脈拍の計測に用いた光電式容積脈波記録と心電図の測定を組み合わせて血圧を予測する事も可能です。
通常の腕に巻く血圧計との誤差を検討した研究では7日間の計測にて、収縮期血圧はー12.7mmHg、拡張期血圧は-5.6mmHgの平均誤差があったとされています。
このレビューにおいては、カフを用いない血圧計まだ発展途上であり、さらなる精査が必要とされています。
心臓リハビリテーションへの応用
心臓リハビリテーションは運動に加えて生活習慣指導など包括的なサポートを行い、病気の再発を防ぐ重要なプログラムです。
ウェアラブル データによってサポートされる遠隔リハビリテーションプログラムは、在宅リハビリテーションに⾰命をもたらし、今まで通院型の心臓リハビリテーションの不便さとコストを軽減する可能性があります。
REMOTE- CRという研究では、ウェアラブルデバイスを用いた遠隔リハビリテーションプログラムにおいては、通院型の心臓リハビリテーションよりも、座位時間を減らし、費用対効果が高い事が示されました。
⼼⾎管疾患患者を対象とした 9 件の試験のレビューやメタアナリシスで総合して検証すると、運動処⽅やアドバイスを含む⾝体活動に関するウェアラブルデバイスは、活動量と歩数の改善において、優れていることが⽰されました。
仮想在宅遠隔リハビリテーションはすでに利⽤可能ですが、さらなる研究により、今後利用が拡大するかもしれません。
運動支援ができるApple watch用アプリ
現在、循環器専門医がApple watch専用の運動支援アプリを開発中です。
循環器専門医の脈拍に基づいた運動強度の設定のノウハウと、Apple watchの精度の高い脈拍計測を掛け合わせた世界で初めてのアプリです。
「せっかく運動するなら、無駄にならないいい運動にしたい」「そろそろ真面目に運動しないと」と思っている方にお勧めです。
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まとめ
- なかなか難解な総説でしたので、できるだけかみ砕いて説明しました(説明を省略したところも多いですので、不正確な点があればご指摘ください)
- 脈拍・心拍リズムの計測の有効性は心房細動などのシンプルな不整脈で示されていますが、有効性には個体差があり、またデバイスの機種の差もありそうです。
- 血圧にもついても計測できますが、標準偏差や誤差がある程度あるので、注意が必要そうです。
- 運動習慣を含む指導を行う心臓リハビリテーションでのウェアラブルデバイスの有効性も示されており、今後遠隔や仮想空間での心臓リハビリテーションが発展するかもしれませんね。
画像:著作者:vectorjuice/出典:Freepik