2023年4月にいくつかのテレビ番組で「週に1回でも1日8000歩を歩けば死亡リスクが下がる」という研究結果が紹介され、心臓病を患う方の間でも話題になっています。
厚生労働省は毎日8000歩を推奨していますが、1日だけでいいなら、それはありがたいですね!
皆さんが、ちゃんと効果を得るために注意してほしい事を、心臓リハビリ専門の医師の視点でまとめます。
週1日8000歩で死亡リスク減:京都大学の研究のまとめ
今回話題になっているは、京都大学とカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究グループの研究で、米国の国民健康栄養調査データを解析したものです。
JAMA Network Openという有名な雑誌に3月28日に掲載されており、4月30日現在ですでに10万人以上に読まれています。
2005年~2006年に4372人の成人を対象に1週間加速器(計測するもの)を付けて生活してもらい、10時間以上加速器を付けていた日が4日以上あった3000人程が研究対象にされています。
1週間歩数を記録して、10年間後に、死亡と心血管疾患による死亡の発生したかを調査し、歩数と死亡との関係について解析してあります。
8000歩達成したのが0日のグループの平均年齢は64歳、1日~2日達成したグループの平均年齢は52歳、3-7日達成したグループの平均年齢は46歳など背景因子の差が大きいですが、それらは統計手法により調整されています。
結果は以下の図の折れ線グラフのように、1-2 日しか 8,000 歩以上歩けなかった人でも、全死亡や心血管死亡のリスクが大幅に低く、週に 3 日以上目標歩数を歩く人と同様に健康的でした。
この効果は、65歳より若年でも高齢でも、男性でも女性でも同様であったとされています。
1日でも8000歩達成できれば、効果があるというインパクトもありますが、1日も達成できなかった人は死亡率が高かったという事も注目すべき観点だと思います。
やっぱり、運動しないことが一番健康には悪いようです。
京都大学の研究の解釈で注意すべき点
背景因子まできちんと統計的に調整されていますし、データの入手方法もしっかりしていてかなり信頼できる研究である印象を受けました。
すこし気になったのが歩数の測り方です。
まず、1週間のみ加速器を装着して測るという点で、1週間という短い期間なので対象者はある程度意識して歩いていたかもしれず、日常の歩数というわけではないかもしれません。
次に、加速器が装着されていた時間が10時間4日間あれば研究対象とされている点です。
例えば1日に10時間しか加速器をつけていなかった人は他の14時間のうち、結構な歩数を歩いているはずので、値として出ていてる歩数よりも実際はもっと歩いていたかもしれません。
加速器を付けていた時間が短いと歩数のデータも短くなるわけで、認知症で忘れがちになっているという事などでも歩数はすくなくなりますね。
加えて、この研究が20年ほど前のアメリカの人々対象にされており、平均年齢は64歳の8000歩達成したのが0日のグループは10年間で40%も亡くなっている、日本の今の64歳とはかなりイメージが違います。
上記より、この研究が素晴らしいのは事実ですが、違う研究結果も加味して判断する事は重要です。
週4日8000歩でも効果がなかったという報告も
というのも、実は8000歩達成したでは健康増進の効果は十分には得られなかったという報告もあります。
信州大学の研究では、60歳前後の中高年を1日8000歩以上のウォーキングをを行うグループと、1日15分以上の早歩きを行うグループに分け、5ヵ月間、週4日以上行った効果を検証しています。
体力の指標である最大酸素摂取量と太ももの筋力は、ウォーキングのグループではほとんど変化がなかったとされています。
一方、この研究のメッセージは、早歩きによる健康増進効果です。
1日15分以上の早歩きを行ったグループでは、体力の指標である最大酸素摂取量と太ももの筋力はいずれも上昇していますし、血圧はウォーキングのグループではおよそ3下がったのに対し、早歩きのグループではおよそ9下がりました。
研究で用いられた早歩きは、インターバル速歩と名付けられており、2,3分のゆっくりした歩行(最大酸素摂取量の40%程度になるような運動)と3分の早歩き(最大酸素摂取量の70%~85%程度になるような運動)を5セット以上行うというものでした。
この研究から運動強度が重要であるという事が分かります。
歩数だけでなく運動の強度も重要!
以前にも紹介しましたが、WHOのガイドラインでは全世界の人々に向けて運動の推奨を行っていますが、運動時間に加えて、運動の強度も定めています。
例えば、65歳以上の人は1週間で150-300分の中等度の運動 もしくは 75-150分の強度の運動(もしくはその組み合わせ)が必要であるとされています。
同様に、我々循環器内科医が運動療法(心臓リハビリ)を実施する際に参考にする、心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインでも適切な運動の強度についての定義がなされています。
2つのガイドラインの記載を合わせて考えると、
脈が上がるが会話ができるぐらいの息切れでややきついと感じる事が中強度の目安で好ましい運動強度という事になりそうです。
ご興味がある方は過去の記事も参考にされてください。2つのガイドラインの事にももう少し詳しく触れています。
なるほど。京都大学の研究にあるように、運動をしない事が一番健康には悪く、1日でも8000歩達成できるようにしていきます。
そしてただ単に歩くだけでも効果がでないかもしれませんので、中強度の運動になるように意識したいと思います。
でも、脈が上がる、会話ができる、ややきついとか、好ましい強度の目安を教えてもらったけど、やっぱりわかりづらい。何かもっとよい方法があればいいけど。。
運動強度を調整する手段は?
適切な運動強度を言葉で表現するのって情報提供する側からしても難しいですし、情報を提供された側としても、応用しにくいと思っています。
なので、私は、心拍数を基準に判断するのがいいと思います。
心臓リハビリでは運動処方といって、患者さん毎に適切な運動時の脈拍を設定します。
簡単に決める方法もあり、運動中の患者さんの心拍数と疲れ具合を記録していき、ほどよい疲れぐらいのときの心拍数を使用します。
以前は、患者さんに検脈の方法を指導し、指で自身の心拍数を計測してもらっていました。
昨今の技術の発展により、現在は検脈をしなくても代わりに、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスが心拍数を測ってくれます。
運動強度の調節のためにスマートウォッチは有効だと思いますので、考慮されるといいかもしれません。
その際の注意点ですが、スマートウォッチの脈拍の精度はピンキリですので、精度が高いものをできれば選ぶ方が安心です。
また、Apple watchに限定して、1人1人に合ったほどよい運動強度に調整する機能など、我々の心臓リハビリの知見を詰め込んだアプリを開発中ですので、興味があればこちらも合わせてチェックしてください。
まとめ
- 運動しない事が一番健康に悪い。週1日8000歩でも死亡減の効果があるので積極的に運動をしよう!
- せっかく運動しても効果が得られない場合として、運動強度が足りないという事は考えらえる。
- 適切な運動強度は「脈が上がるが会話ができるぐらいの息切れでややきついと感じる」ぐらい。
- 検脈やスマートウォッチなどで心拍数を計測して、負担なく適切な運動強度の運動を行いましょう!