私は循環器内科医で心臓リハビリという運動療法に従事してきました。
運動生理学の教室に留学して研究を行った経験もあります。
今回は、患者さんからよく質問される「体力の付け方」についてまとめます!
今回の内容はシニアの方向けです。アスリートの方向けのトレーニングについては専門外ですので触れていません。
体力とは
そもそも、体力とは何でしょうか?スタミナ・持久力などいろいろな呼び方がありますよね。
平たく言えば体力があると、たくさん運動する事ができ、体力がないとすぐに疲れてしまいます。
年齢を重ねればどうしても体力が落ちていき、疲れやすくなってしまいます。
それを”すこしでも食い止めたい!” というのが多くの人が持つ望みですよね。
医学的には体力の事を運動耐容能といいます。
そして、運動耐容能は、CPXという検査によって最大酸素摂取量(VO2 max)として数値化されます。
1分間で酸素をどれだけ口から摂取したかを計測して、最大になった時の値です。
・体力がある=たくさん運動できること
・運動するには筋肉を動かす必要
・筋肉を動かすためには酸素が必要
なので、
酸素を多く使用している=筋肉を多く動かくしてる=たくさん運動している=体力がある
になります
さらに、最大酸素摂取量はどの臓器の影響を受けるのかを教えてくれるのがFickの式です。
【Fick の法則】
運動耐容能=心拍出量 x 動静脈酸素含有量較差
心拍出量をになっているのはもちろん心臓です。
動脈に多くの酸素を含ませるためには、肺で多くの酸素を吸収する事と、酸素を乗せるヘモグロビンが必要です。
最終的に筋肉で多くの酸素を消費する事で、静脈に残る酸素の量が少なくなるので、動静脈酸素含有量較差は大きくなります。
よって、運動耐用能に関係するのは、
心臓・肺・ヘモグロビン・筋肉 であり、
体力の衰えは心機能の低下・肺機能の低下・ヘモグロビン濃度の低下(貧血)・筋肉での酸素消費効率の低下で起こります。
体力の付け方
さて、では体力をつけるにはどのようにすればいいでしょうか?
まず先ほど勉強したように、体力に関わっているのは心機能・肺機能・ヘモグロビン濃度・筋肉での酸素消費効率です。
この中で、肺は残念ながら鍛える事は難しいです。
ヘモグロビンも一定のレベルが保たれるものであり、増やすことは難しいです。
よって、鍛えるべきは心臓と筋肉です。
心臓も筋肉の塊ですので、平たく言えば筋トレになる運動をすればよいわけです!
では、実際にはどのような運動がよいのでしょうか?
ここでは、参考にWHOのガイドラインにおけるシニアの方運動の推奨について紹介します。
全世界の人向けの運動の推奨です。
65歳以上の人は1週間で150-300分の中等度の運動 もしくは 75-150分の強度の運動(もしくはその組み合わせ)が必要であるとされています。
ここでいう中等度とは脈拍が上がり呼吸が早まる運動強度です。
強度とは呼吸がきつくなり早くなる強度です。
加えて、中等度以上の筋力トレーニングを週に2回以上取り入れることも推奨されています。
また、機能的な能力を高め、転倒を予防するために、中等度以上の強度の変化に富んだ多成分の身体活動を、週3日以上行うべきであるともされています。
やはり理想的には、いろいろな筋肉を常時使う習慣が望ましいのでしょう。
他にも、子供青少年・成人・妊娠中及び産後・慢性疾患を有する成人などのカテゴリー毎に運動の推奨があるので、ご興味がある方は日本語訳の資料を見てみてみてください。WHOのガイドライン
また、過去の記事では、心臓に筋肉はつくのか?という観点でまとめを作っていますので、こちらもご興味があれば合わせてご参考になさってください。
なるほど、体力をつけるには心臓と筋肉のトレーニングのため運動ですね。
でも、体力が付いたか分からないとやる気もでない。
簡単に体力を測れる方法ってないものですか?
体力を測る簡単な方法
体力、つまり最大酸素摂取量を測る方法は、CPXです。
でも、これは病院の中でしか測れないし、測る方も大変だし、手軽には測れません。。
そこで私がよくつかっているのが、6分間歩行距離と握力です。
心臓リハビリのノウハウを活かして、私は地域で健康体操の取り組みをしています。
定期的に体操に通ってもらい、その効果判定として6分間歩行距離と握力を計測しています。
6分間歩行距離というのは、6分間で歩けた距離のことです。ポイントはできるだけ長い距離を歩けるように頑張る事です。
6分間歩行距離が最大酸素摂取量と相関関係にある事は多くの研究で示されています。
参考に日本フィットネス協会の6分間歩行テストについてのまとめはコンパクトに日本語でまとまって分かりやすいかもしれません。
私は広いスペースを利用して25m測り、被験者の方にはそこを往復して歩いてもらい、往復した回数と最後の端数の歩行距離を測定します。
加えて実は、握力は最大酸素摂取量や6分間歩行距離と相関関係があり(Int. J. Environ. Res. Public Health 2017, 14, 473、The Journals of Gerontology: 2001,56,M146–M157)、私は体力の簡易的な指標として使用しています。
イメージとしては握力がある=腕の筋肉がある=全身にも筋肉がある=体力がある という感じですね。
因みに、最近では、Apple watchが日常生活の運動量から最大酸素摂取量の推定を出してくれる機能もあります。
こちらは、何をどのように判断して推定値を出しているのかよくわからないので、まだあまりあてにしないようにしています。(Appleの心肺機能レベルを追跡するのページ)
まとめ
- 体力とは最大酸素摂取量をもって計測が可能で、心機能・肺機能・ヘモグロビン濃度・筋肉での酸素消費効率が関係しています
- 体力をつけるには、心臓と筋肉を鍛えるべく運動をすること!
- 適切な運動強度は脈拍が上がり呼吸が早まるようなレベル以上で、65歳以上の方は週に150分は行うのがよい
- 体力を手軽に計測する方法のお勧めは6分間歩行距離と握力