ずぼら運動学

普段の生活と心臓への負荷〜目安と工夫について〜

弁膜症術後
こず江さん

弁膜症と言われ手術を受けました。

無事に退院できましたが、今まで通りの生活が送れるのか不安です。

どれくらい動いてもいいのでしょうか?

趣味をしたいけど大丈夫?

PTアッキー

こず江さん、心臓病を発症した方が自宅退院をする際に皆さんが不安に思っている事ですから大丈夫ですよ。

普段の生活がどれくらい心臓に負荷をかけるのか、その目安について説明します。

活動量はどうやって判断するのか?

日々の生活で体を動かした際に、どれくらいの身体に負荷がかかったか、を表す指標として「メッツ/METs」というものがあります。

これは静かに座っている状態を1として、普段の生活動作や運動が何倍の負荷に相当するか、を表しています。

例えば歩いたり、掃除機をかけるなどは3メッツ、階段を登るのは8メッツに当たります。

普段の生活動作がどれくらいのメッツに相当するか、は厚生労働省のホームページや国立健康・栄養研究所が発行している、改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』に記載されています。

また、このメッツに活動時間をかけた「メッツ・時」を身体活動量として表します。

例:ゆっくりとした散歩(3メッツ)を30分(=0.5時間)を実施した場合

3メッツ×0.5時間=1.5メッツ・時

日本人の平均的な1日の活動量

政府が発表している令和3年社会生活基本調査では、年齢・性別ごとに1日の中でどの行動にどれくらい時間を費やしているか、がまとめられています。

65歳以上の平均的な生活は以下のような結果となっています(一部省略)。

◎メッツの低い活動

睡眠・休養(1メッツ):600分

食事(1.5メッツ):119分

テレビ・ラジオ・新聞・雑誌(1~1.5メッツ):247分

仕事(デスクワークだと1.5メッツ):78分

◎メッツが中等度以上の活動

家事・身の回りの用事(3メッツ前後):210分

移動(4メッツ前後):29分

スポーツ:17分

趣味・交際:53分

この数値より活動量が多い場合は、平均より活動量は多い、逆に少ない場合は平均よりも活動量は少ないという事になりますね。

また、「趣味をしたいけど大丈夫?」という質問にお答えするために、趣味のメッツについて以下にまとめます。

趣味について総務省の統計によると、

「読書(31.6%)」や「音楽鑑賞(53.5%)」、「映画鑑賞(52.7%)」といったメッツの低い活動をしている人が多く、

「園芸・ガーデニング(26.0%):4メッツ以上」のような中等度以上の活動をしている方の割合は少し減っています。

次に何らかのスポーツをしている方は65歳以上では全体の60.2%となっており、「ウォーキング:4メッツ」を週に2日以上行っているのは25.7%、「登山・ハイキング:7メッツ」を行っている人は5.2%、「ゴルフ:3メッツ以上」を行っている人は6.3%、「器具を使ったトレーニング:3メッツ以上」を行っている人は9.6%と報告されています。

活動量を維持することの重要性

メッツで表される運動強度はあくまで目安です。

メッツは体格や性別によって少し数値は変わります。

また、実際の日常生活を行う環境や、休憩を取るタイミングなどを工夫することで身体にかかる負荷を減らすことも可能です。

実際に動いてみた時に心拍数がどれくらい上がるのか、を知っておくことも重要です。

また、心臓への負担を心配し過度に日常生活などを制限することは、かえって体力の低下や息切れの増悪にもつながってしまいます。

座ってテレビを見たり、横になっている時間など、1.5メッツ以下の活動が増えると、糖尿病や心臓病の発症や死亡率を増やすことが示されています。

反対に、活動量が多い人は心臓病や脳梗塞になる可能性を下げることも明らかとなっています(日本動脈硬化学会,動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版)。

また、1週間で500メッツ・分(身体活動活動のメッツ数×何分活動したか)の活動を行うと、心臓病になる可能性を10%下げるという報告もあります(Pandey.Circulation,2015)。

運動や活動量の目安として、WHOは65歳以上の方に、1週間で150〜300分以上の中等度の有酸素運動、もしくは75−150分の強い強度の運動を実施することを勧めています(WHO,2020)。

また、心臓病の方には、1回あたり30〜60分、週3日以上の運動が推奨されています(日本循環器学会,2021)。

いずれもまとまった時間を取る必要はなく、短時間の運動を繰り返し行っても効果は変わらないとされています。

普段の生活のちょっとした工夫、例えば買い物に行くときはいつもより少し遠回りをする(3−4メッツ)、エレベーターを使うときは1つ下の階で降りて階段で登る(8メッツ)、などでも活動量を増やすことができます。

それでもどれくらい動けるか不安な方は、今のご自身の体力を正確に知ることができる心肺運動負荷試験という検査を受けてみることを検討してください。この検査では検査用のマスクを着け、自転車をこぐ運動を行います。段階的に運動負荷をあげ、心臓や肺がどこまで耐えられるのかを検査し、安全に続けられる活動の強度を評価することができます。気になる方は一度主治医にご相談するといいかもしれません。

まとめ

  • 日常生活の動作を表す目安としてメッツがあります。
  • 安全な運動強度を知ることで、日々の生活はより充実したものに変えられます。
  • 適度な運動は心臓病を悪化させる可能性を下げます。
  • どういった工夫をすれば心臓への負担を減らすことができるのか、気になった場合はぜひ気軽にご相談ください。

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