日本各地には様々な温泉があり、また、日々の疲れを癒すために入浴をする方は多いのではないでしょうか。また、最近はサウナの人気も高まっており、テレビなどでも特集が組まれているほどです。
アッキー
しかし、心臓病の方にとって、入浴は不安と感じられる方も多くいらっしゃいます。そこで、入浴と心臓病の関係についてまとめます。
入浴がどれくらい心臓に負担をかけるか
まず、入浴動作がどれくらい心臓に負担をかけるか、についてですが、普段の身体活動の記事で記載したMETsに当てはめると、座っての入浴は1.5メッツ、立ってシャワーを浴びる動作は2.0メッツに相当します。
座って会話や食事、デスクワークは1.5メッツ、料理や洗濯、着替え、洗面、シャワー、家の中を歩くなどは2.0メッツとされているので、心臓への負担としては、そのような運動と同程度という事になります。
METsの解説はこちらを参照ください。
入浴習慣と心疾患の発生率
では、入浴は心臓にいいのでしょうか?
入浴習慣と心臓病や脳卒中の発生率について調べた文献があります(Ukai T, et al. Heart 2020;106:732–737.)。
この論文は、心臓病になったことがない40−59歳の日本人約3万人の生活習慣を20年間(1990年〜2009年)に渡り調査した結果を報告したものです。この研究では、高血圧や糖尿病など心臓病の原因となる病気以外にも、就業状況や、睡眠時間、食事内容なども含めて解析されています。
その結果、ほぼ毎日入浴する人は、週2回未満の人と比べると、冠動脈疾患になる可能性が30%、脳卒中になる可能性が23%減少するとされています。
また、海外ではサウナに入る習慣と心臓病の発生率についての文献もあり、習慣的にサウナに多く入る人の方が心臓病にになりにくい、と報告されています(Laukkanen et al. BMC Medicine (2018) 16:219.)。
なぜ心臓病の発生率を下げるのか
入浴が心臓の負担を減らすことは様々な研究によって明らかになっています。
まず、胸の高さまで浴槽に浸かることで、静水圧(水が水中にあるものを押す力)が上昇し血管を外から押すため心臓に返ってくる血液が増え、それに伴い、心拍数と心臓が血液を送り出す力が増加します。
そして、体が温まることで血管が拡張する効果も得られるため、結果として血圧は低下し心臓への負担は減少します。
これらと同時に血管の内側の細胞(血管内皮細胞)の機能が改善し、より血管の拡張を促進します。
ただし、この効果は40度前後のお風呂に入浴することで得られる効果です。
42度を超える熱いお風呂に入ると、交感神経系が活性化し、血管が収縮してしまうため、かえって血圧が上昇し心臓への負担が増加してしまうため、注意が必要です(Eimantas,et al. International Journal of Hyperthermia. 2022, vol39, no.1, 134–143)。
注意点
入浴は心臓病にとって効果的ではありますが、事故が起きることもあるため注意が必要です。
厚生労働省に統計によると、2021年は浴室での転落による溺死が65歳以上では5000件以上も報告されています。
また、冬場の入浴時に「ヒートショック」という事故を起こす可能性があります。
「ヒートショック」とは急激な温度の変化で身体がダメージを受けることを言います。
リビングなどはエアコンなどで暖かくしていても、脱衣所や浴室が寒いままだと、急激な温度変化に伴い血圧が大きく変化し倒れてしまう可能性が高くなります。
安全に入浴するために、以下の点について確認してください。
- 入浴前に脱衣所や浴室を暖めておく
- 湯温は41度以下、湯に浸かる時間は10分までを目安にする
- 浴槽から急に立ち上がらないようにする
- 食後すぐの入浴や、飲酒、医薬品服用後の入浴は避ける
- 入浴する前に同居者に一声かけてから入浴する
まとめ
- 習慣的な入浴は心臓病になる可能性を減らします。
- 熱いお湯に入ったり、長時間の入浴はかえって心臓に負担をかけてしまうので注意が必要です。
- 入浴中に事故が起きないように、環境に配慮をしましょう。
- 体調が悪い時は事故が起きる危険性が増す可能性があるので、必ず医師と相談の上で入浴やサウナの利用を行ってください。