先日、タレントの辻希美さんが体調不良について言及する際に、「血圧が低過ぎた」というコメントとともに最高87、最低48と記録された血圧測定の結果用紙をアップされていました。
私は、循環器専門医で、患者さんには健康管理のために血圧を定期的に測定するようにお願いしています。
患者さんの中にも血圧が低かった時に不安に思う方がいて、大丈夫だろうか?と質問されたことがあります。
そこで、今回は、低血圧の原因や病院に行った方がいい症状などについてまとめたいと思います。
低血圧の基準
アメリカ心臓病学会によれば、日々の血圧が低すぎると判断する明確な基準はないが、収縮期血圧90mmHg以下、拡張期血圧60mmHg以下は低血圧と考えられうるとしています。
医師として診療する際にはアメリカ心臓病学会が言っているように、収縮期血圧90mmHg以下の血圧を見ると低いなっという気になります。
ただし、血圧は個人差・時間帯による差があり気温などの環境も受けるので、万人に一定の基準で判断するのは難しいです。
個人際については添付の図をご覧ください。
確かに平均的な値の人の頻度が一番高いですが、血圧がもともと低い人も一定数いるんです。
個人によって、その人の通常の血圧というものがあります。
血圧は日内変動については添付の図をご覧ください。
通常は睡眠中に低く、朝起きてから徐々に高くなっていきます。
環境による影響としては、例えば、気温によっても変化があり、冬になり寒いと血圧が高くなり、夏になり暖かくなると血圧は下がる傾向にあります。
上記のことから、収縮期血圧90mmHg以下、拡張期血圧60mmHg以下は低血圧が低血圧の一つの目安ですが、いつもの自分の血圧の事をしっかり把握して、どれぐらい低下しているかという事が重要ですね。
低血圧の原因
血圧 = 心拍出量 x 細い動脈の抵抗(末梢血管抵抗) という関係があります。
ですので、血圧が下がるのは以下の2つの事が原因です。
①心拍出量の低下
②細い動脈の拡張
①心拍出量の低下の原因は?
心臓の血液を駆出する力が落ちれば、心拍出量は低下します。例えば以下のような病気では、心臓の力を落とします。
- 心臓発作(心筋梗塞)
- 心臓弁膜症
- 頻脈(心拍が極めて速くなった状態)
- 徐脈(心拍が極めて遅くなった状態)
- 不整脈(心臓のリズムが異常になった状態)
- 心タンポナーデ(心臓と心臓の膜の間に水がたまった状態)
- 肺塞栓症
これらの病気は急に発症する事がありますが、多くは胸痛や動機や脈の違和感を伴います。また、ふらつきや吐き気など低血圧による症状も生じやすいです。
そもそもの血液量が不足すれば、心拍出量も低下します。
体内の血液量が過度に減少する原因としては、以下のものがあります。
- 脱水
- 出血
これは、多くはゆっくりと変化するものですので、血圧も数日かけて徐々に下がる事が多いと思います。
脱水は飲んだ水の量や、出た汗の量などから自覚している事もありますが、消化管出血などの内臓の出血は自分ではわからない事があるので注意ですね。
消化管出血については便の色が黒くなったり赤くなったり、においが鉄っぽくなったりすることでわかる場合もあります。
②細い動脈の拡張の原因は?
薬物や毒素などの刺激により細い動脈に異常な反応を起こしてしまう事があります。例えば以下のようなものです。
- 重度の細菌感染症で細菌が作り出す毒素(敗血症性ショック)
- 脊髄の外傷により、細動脈を収縮させる神経が損傷
- アレルギー反応(アナフィラキシー)(薬・食べ物・蜂などが原因になります)
- 特定の内分泌疾患(副腎クリーゼなど)
これらは急いで処置が必要となる事が多いです。
低血圧がもたらす症状:異常なサインは?
低血圧が病的なものであるかどうかの判断には、症状があるかどうかは重要です。
血圧が下がりすぎた場合、最初にサインを出すのは脳です。
脳の機能を維持するには相当の栄養を血液で運ぶ必要がありますが、
脳は体の最も高い位置にあり、高い圧を加えて血液を駆出しないと脳に血液が到達しないので、低血圧になると、脳まで血液が行きにくくなります。
脳への血流が不足すると、 めまいやふらつきを感じ、特に立っているときに症状が現れやすく、 失神することもあります。
血圧が下がった事を受けて、体は血圧を上昇させてようとします。
具体的には、細い動脈を頑張って収縮させようとして、皮膚や手足の細い動脈を細めて血流が少なくするため、これらの部分は冷たくなり、青ざめていきます。
心拍質量を確保するために心臓が速く強く拍動させ、 動悸を感じる事があります。
低血圧の時の対処法
上記のような症状がある場合は、急いで病院にかかる方がいいでしょう。
特に、急激に症状が出現した際は要注意です。
急に血圧が下がったのか、いつも血圧が低いのかは非常に重要な情報ですので、自分の血圧を記録しておくことは大切です。
また、症状も記録しておくことで、血圧の変化と症状の関係についての情報も得られるので、それは診察の時に有効な情報になりますよ。
まとめ
- 低血圧は一定の基準はないが、臨床現場では収縮期血圧90mmHg以下、拡張期血圧60mmHg以下は一つの目安として使用されている
- 血圧は個人差・時間帯による差があり気温などの環境も受ける
- 低血圧の原因は①心拍出量の低下②細い動脈の拡張
- 症状としてはまずは一番高い場所にあって血液を送るのに圧が必要な脳の症状
- 症状がある際などは病院に行く方がよい