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知らないと再発するかも?心筋梗塞について~繰り返さないための4つのポイント~【循環器専門医・医学博士解説】

心筋梗塞。怖い病気ですよね。2021年の1年間で日本では約78,000人の心筋梗塞が確認されています。(JROAD)

心筋梗塞は死亡率40%と言われており、多くの方が病院もたどり着かずに突然死していると推定されています。(日本循環器学会

この記事をご覧いただいている方の中には、心筋梗塞になって一命をとりとめた方もいらっしゃると思います。

一命をとりとめた事は大変喜ばしい事です。

ただ、私はそんなあなたにあえて言いたいです。

「安心しないで」

心筋梗塞は再発する病気です。

日本からの研究では、心筋梗塞後の方は3年間で27~40%の確率で心血管の病気を引き起こすことが示されています。(Circ J 2017; 81: 958–965

日本で心筋梗塞や狭心症の治療の為、カテーテル治療を受ける人の2割は心筋梗塞後の人です(2021年、J-PCI

今日は、そんな心筋梗塞を絶対に繰り返したくない方の為に、循環器専門医かつ医学博士の私が選りすぐった価値ある情報を、わかりやすく、行動に移しやすい形にできるだけかみ砕いてお伝えします。

身近に心筋梗塞になった方がいる人は、その人のためにも勉強して行って下さい。

心筋梗塞とは

心筋梗塞のイメージは?例えを使って説明

まずは、心筋梗塞について理解しましょう。

心筋というのは、心臓の筋肉の事です。心臓は基本的には心筋細胞の集合体で、筋肉の塊です。心筋が順番にリズムよく収縮・拡張を繰り返すことで、血液を送り出すポンプの働きをしています。

梗塞というのは動脈が閉塞してその還流組織に壊死(病的な死)が起こることを言います。

よって、心筋梗塞というのは、心筋を栄養している動脈が閉塞して、閉塞した先の心筋に血液が流れないため、心筋が死んでしまう病気です。

ここでは、知識がなくてもまずはイメージを浮かんでもらえるように例えを用いて説明します。

心筋と心筋を栄養している動脈との関係は作物と水路の関係に似ています

上の写真では、大きな水路から枝分かれするように、小さな水路があり、農地を潤おしています。

この水路がせき止められると、どうなるでしょうか?

例えば、このような岩がドンと水路をふさぐと、赤で囲った範囲の農地には十分な水が行かなくなってしまいます。

そうすると、作物は水不足になり、何日も水不足の状態が続くと、枯れてしまいます。

この状態になると、再度水を上げたとしても、残念ながら、作物は枯れたままでしょう。

この例えで理解してほしいポイントは2つです。

①水路がたたれて時間が経つにつれて食物が枯れていくように、動脈が詰まっている時間が長ければ長いほど、心筋も死んでいきます。

つまり心筋梗塞の範囲は大きくなります。

心筋梗塞が大きければ大きいほど、心臓へのダメージは大きいです。

十分に血液を拍出するパワーがなくなったり、不整脈や心破裂などの合併症を起こす危険も高まり、命も危なくなります。

少しでも早く、冠動脈の閉塞を解除し、心筋に血流を戻すことが大事です。

そのために、我々は、心筋梗塞になった患者さんが病院で受診したら急いでカテーテルの治療を行っています。

②一旦枯れた作物が再び息を吹き返さないように、死んでしまった心筋も生き返る事はありません。

ですので、そもそも発症もしくは再発させない事が一番重要になります。

心筋梗塞の原因は?

再発させないためには、心筋梗塞の原因を知る事は重要です。

前の例えで言うならば、水路をせき止める岩になります。

これは、血栓です。

心筋を栄養する動脈の中では、動脈硬化で血管の壁にプラークと言われるコレステロールがたまったコブができ、それが大きくなって破裂してしまう事がきっかけで、動脈をふさいでしまう血栓ができます。

こちらの図は動脈の輪切りの図です。

黄色いコブがプラークで薄い膜に覆われています。

プラークがある程度大きくなり、血流の増加などで膜に刺激が入り破けると、一番右の図のようにプラークが血管内に漏れ出て、それをきっかけに急激に血栓ができ、血管に詰まります。

ですので、5分前にはいつも通り元気だったのに、急にもだえるほど胸が痛くなるという事が起こるのです。

そして、そもそもの動脈硬化の原因はいわゆる生活習慣です。

心筋梗塞を引き起こす4大危険因子は以下の通りです。

4大危険因子(4大冠危険因子)
  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 脂質異常症
  • 喫煙

国立循環器病研究センター

なぜ再発するのか?

①他の血管も動脈硬化が進んでいるから

動脈は全身にはりめぐらされていて、動脈硬化の影響をもれなく受けています。

例えば、自転車のチェーンがさび付くときに1つのパーツのみ錆がつく事はなく、チェーン全体がさび付きますよね。

心臓の動脈で動脈硬化が進んでいるのであれば、他の心臓の血管はもちろん、脳・腎臓・足の動脈など、いたるところの動脈で動脈硬化は進行しています。

ですので、心筋梗塞になってしまうような血管の持ち主では、心臓の動脈のいたるところにプラークは存在しています。

この感覚はあまりないかもしれません。

世に出回っている、動脈硬化を説明するイラストは以下の図のようにあたかも一部分だけが動脈硬化が進行しているように描かれていますし、我々も病院で患者さんに病気の説明をするときに、要点が分かりやすいように、そのような図を使います。

誤ったイメージ図例
プラークのコブは1つしか描かれていないが、本来は動脈の至る所にプラークは存在するはず。

再発予防を頑張るためにも、一度心筋梗塞を起こした人には、他の血管にも、多かれ少なかれ、すでにプラーク必ず存在している事を自覚する方がいいと思います。

②生活習慣による病気だから(生活習慣を正すのが難しい)

動脈硬化の原因はなんでしたか?生活習慣ですよね。

皆さんの今までの生活習慣がコツコツ血管にプラークを蓄えてきてしまったわけです。

いわば、ベルトコンベアの工場のように、毎日自動的にプラークを作り出す仕組みを構築してしまっているんです。

ついついお菓子を間食してしまったり、食後にたばこを吸ったり、家に帰るとテレビをつけて座りっぱなしになったり、一度ついてしまった習慣を変えるのは難しい事です。

一度組んだレーンを解体して、新しい工場を建設するようなものです。

なので、多くの人が悪循環を断ち切れずに、心筋梗塞など動脈硬化による病気を繰り返してしまうんです。

繰り返さないための4つのポイント

さて、それでは心筋梗塞を繰り返さないために重要な事を述べていきます。

特別な事ではなく当たり前の事ですが、具体的な行動プランまで提案していきますね。

①内服を続ける

まずは、やっぱり内服は飲み忘れなく続けてほしいと思います。

心筋梗塞になるような方はかなり動脈硬化が進行しているので、動脈硬化が進むのを抑えるための薬を使用します。

例えば、アスピリンなどの血液サラサラの薬とスタチンと呼ばれるコレステロールを抑える薬は基本的には全員に使用する事が科学的に推奨されています。(急性冠症候群ガイドライン2018

これらの薬は、自分の血管を動脈硬化から守ってくれている薬ですので、ぜひ飲み忘れなく続けてくださいね。

とはいえ、薬を飲み続ける事は面倒ですし、忘れないようにするのは難しいですよね。

そんな方の為に2つの行動プランを提案します。

行動プラン
  1. 主治医に残薬を報告するようにする
  2. 薬をもらってきたら、日付ごとに分類して管理する

①主治医に残薬を報告するようにする

残薬を言う事で、飲み忘れている事がばれてしまうわけですが、

思い切って主治医に伝えてみましょう!

飲み忘れがあるという事実を把握できれば、飲むタイミングを他の薬と合わせたり、回数を減らせないか、など飲みやすくなる方法を考えることができます。

もちろん、余った薬を捨てなくて済むので、薬代の節約にもなりますよ。

②薬をもらってきたら、日付ごとに分類して管理する

私の祖母の内服の管理の為に母もやっている事です。

薬が袋に入っているままだと、何をいつの飲む必要があるのか分かりにくいですし、いちいち出して飲むのも面倒です。

薬をもらってきたら、その日のうちに、日付ごとにわけてしまうと後の管理が楽ですよ。

カレンダーに張ってしまうのもいいかもしれません。

②禁煙

禁煙は必ず行うべき事でしょう。

まさに「百害あって一利なし」です。

たばこを吸いづづけていると、動脈硬化は速いスピードで進行していきますので1日でも早くやめる方がいいです。

と、耳にタコができるほど言われていると思います。

実は、私も学生時代はたばこを吸っていまして、禁煙の難しさは理解できます。

私の場合2回禁煙に失敗して、医者になるぎりぎりのところで禁煙に成功しました。

禁煙を始めて、1ヵ月、3月、6月ぐらいにピークが来て、また吸いたくなるんですよね。。

でも、安心してください!時が解決してくれます。たばこを一定期間吸わないでいると、もう体が求めなくなり、吸わなくても全然平気になりますよ。

一度抜け出してしまえばこっちのものです。

なので、体がたばこを欲さなくなるまで、だましだましでやればいいです。

行動プラン
  1. 市販の禁煙グッズを使用する
  2. 禁煙外来を利用する

①市販の禁煙グッズを使用する

私の場合は、禁煙ガム、ニコチンパッチ、電子たばこを試しましたが、結局電子たばこが気に入りました。吸うと先がオレンジ色に点灯し、水蒸気がたくさんでるものでした。いろいろな商品があるので、自分の気がまぎれるものを探して使用してみてください。

②禁煙外来を利用する

2006年より禁煙治療に健康保険が適用されるようになりました。12週間に5回の禁煙治療が行われます。最近では2,3,4回目はオンライン診療も可能ですし、禁煙治療用アプリも使用可能になっているので、より使いやすいものになっています。(厚労省

禁煙治療で、5回の診察すべてを受けた人は、治療終了時で約75%が禁煙に成功しているようで、かなり効果がある印象を受けています(たばことがん、国立がん研究センター

③食事

生活習慣といえば食事でしょう。

心筋梗塞後の方は主には、塩分とコレステロールの取り過ぎに気を付ける必要があります。

塩分を取ると高血圧になり動脈硬化が進みます。加えて心臓にも負担がかかります。

コレステロールは動脈硬化でできるプラークの元になる物質ですので取り過ぎは禁物です。

減塩料理については、私が考案した、時短家電を使った、楽しながら、簡単においしい減塩料理を作る方法、”らくシオ”が参考になるのではないかと思います。

こちらの記事でコンセプトをまとめていますので、ご参照ください。

コレステロールが多く含まれるのは、卵やレバーやモツなどの動物の内臓です。

脂身が多い肉などの多く含まれる飽和脂肪酸のを取り過ぎ、マーガリンや揚げ物などの工業的トランス脂肪酸の取り過ぎも血中の悪玉コレステロール値を上げてしまうので注意が必要です。(厚生労働省

行動プラン
  1. らくシオを参考に減塩料理を作る
  2. 卵やレバーやモツなどの動物の内臓、脂身が多い肉、マーガリンや揚げ物を避ける

④運動

なんといっても、今回強調したいことは、運動の重要性です。

皆さん運動は健康にいいという事はご存じだと思いますが、適度な運動を習慣的に行う事は、心筋梗塞の再発予防効果がある事はご存じですか?

心筋梗塞後に心臓リハビリテーションという運動療法を中心としたプログラムに参加する事で、心臓梗塞の再発を18%減らすことができます。1年以内の再発に限ると28%減らします(European Heart Journal, 44, 452–469,2023)運動が心臓にいいことは、我々医療者の常識です。

弱すぎず、強すぎずの適度な強度の運動を、1日20-60分、1週間に5回以上を目安に行う事が推奨されています(心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン)。

運動の有効性や運動の強度についてはこちらの過去の記事もご参照下さい。

最初から完璧は難しいです。

以下のような段階を踏んで、改善していってはいかがでしょうか?

行動プラン
  1. 座りっぱなしや寝転んでいる時間を減らす:紙に書く・携帯のタイマー
  2. 朝の散歩など、運動の習慣をつける
  3. 運動する際に脈拍や疲労度を確認し、適度な運動強度に調整する

①座りっぱなしや寝転んでいる時間を減らす:紙に書く。携帯のタイマー

運動療法というと、何やら難しい気がして、とっつきにくい気がしてしまうかもしれませんが、難しく考えないでください。

ポイントは、動かない事が体には一番よくないという事です。

1日で座っている時間が10分増えると死亡率が5%程度増加、ストレッチや掃除などの軽い運動を10分増やせば死亡率が5%程度低下する事が研究で示されています。(BMC Geriatrics 2022)

座りっぱなしの心臓病への影響についてはこちらの記事もご参照下さい。

体は使わないと、錆ついていきます。車と一緒です。10分でも動かない時間を減らす事が、長生きに繋がるので、まずは動かない時間を減らすところから始めましょう!

テレビを見るときにストレッチしたり、新聞を立って読んだりなど、もいいかもしれません。

と言って、始めてもきっと続かない人は多いです。

人は忘れる生き物だからです。

ですから、「動く」と紙に書いて壁に張ったり、携帯のタイマーやアプリを使って、思いださせてくれる仕組みづくりをしてはいかがでしょうか?

Apple Watchのアクティビティという備え付けのアプリでは座っている時間が長いとお知らせしてくれるので、このような機能はいいかもしれませんね。

②朝の散歩など、運動の習慣をつける

決まった時間やタイミングで、運動を取り入れるというものいいと思います。

例えば、朝の決まった時間に散歩するようにしたり、買い物の帰りには少し遠回りして帰るるようにしたりなど、自分でルールを決めて取り組んではいかがでしょうか?

まずは、難しい事はなしにして、自分が無理せず楽しめる運動の習慣をつける事が重要です。

③運動する際に脈拍や疲労度を確認し、適度な運動強度に調整する

そのうえで、できれば、運動の強度にもこだわれると100点です。

適切な運動強度は脈が上がるが会話ができるぐらいの息切れで、ややきついと感じるレベルです。

脈拍を検脈はスマートウォッチなどで測れるなら、安静時に脈拍より20もしくは30回多い脈拍が適切なレベルです。

医学的に適切な強度の運動ができるようになるアプリ

とはいえ、運動を自分一人でやるという事は大変困難です。医学的に適度な強度で行うとなるとなおハードルは上がります。

私は病院で診療をしていて、そんな方を多く見てきました。

そこで、現在、循環器専門医の私がApple watch専用の運動支援アプリを開発しています。

循環器専門医の脈拍に基づいた運動強度の設定のノウハウと、Apple watchの精度の高い脈拍計測を掛け合わせた世界で初めてのアプリです。

週に150分以上の中強度以上の運動ができるようサポートします。

このアプリではエビデンスに基づいた医学的なノウハウを用いて中等度の強度の設定が可能で、運動中は中等度以上の運動になるようにApple watchが「スピードアップ」と通知を入れてくれます。

「せっかく運動するなら、無駄にならないいい運動にしたい」「そろそろ真面目に運動しないと」と思っている方にお勧めです。

ご興味がある方は、以下のLINEにお友達登録をお願いいたします。開発状況など最新情報を共有いたします。

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まとめ

  • 心筋梗塞は命を奪う怖い病気であり、繰り返さない事が重要である
  • 心筋梗塞が再発してしまうのは、①すでに他の全身の血管で動脈硬化が進行しているから②生活習慣を変えないと悪循環から抜け出せないから
  • 心筋梗塞の再発を防ぐためには①内服を続ける②禁煙する③食事を変える④よい運動習慣を身につける

今日も、健康であなたらしい1日をお過ごしください。

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