心臓病と腎臓病には密接な関係があり、どちらか一方が悪くなると、もう一方にも悪影響を及ぼすため、心臓病と腎臓病の関係は、近年非常に注目されています。しかし、お互いの関係は非常に複雑なため、まだ全てのメカニズムが解明されたわけではありません。
前回は、腎臓の基礎知識についてまとめました。
今回は、心臓病の方が腎臓が悪くなることで受ける影響と対策という観点で私の専門知識を活用して記事にしました。この記事があなたの行動を変え、あなたが1日でも長く健康な生活を送れることを願っています。
心臓病を患っているがまだ腎臓病にはなっていない方
心臓病を患い腎臓病にもなってしまったが、これ以上悪くしたくない方
心臓病と腎臓病のお互いの関係 〜心腎連関症候群〜
まずは、心臓病と腎臓病との関係について勉強しましょう。
心臓は全身に血液を送るポンプの様な働きをしており、腎臓は余計な水分や老廃物を排泄するフィルターの様な働きをしています。
普段、じっと過ごしている時、私たちの全身を回る血液の20%は腎臓に送られています。多くの血液が送られるということは、それだけ重要な臓器である、ということになります。そして、腎臓は血液や酸素が足りなくなるとすぐに悪くなってしまう、非常に繊細な臓器なのです。
心臓の機能が低下すると、腎臓を含む全身の臓器に十分な血液が送れなくなり、各臓器が十分に働くことができなくなります。田んぼに水を送るポンプを心臓と考えると、ポンプの機能が悪いと田んぼに十分な水が送れなくなり、稲(=腎臓)が枯れてしまい、十分な機能を果たすことができなくなります。
また、腎臓の機能が低下すると、体の中に余計な水分や老廃物が溜まり、心臓への負担が増加してしまいます。
先ほどと同じ様に心臓をポンプとして考えてみましょう。水がどんどんポンプの中に溜まってくると、ポンプは頑張ってその水を出そうとします。しかし、水の量が多すぎるため、どれだけ頑張っても追いつかず、どんどん水が溢れてしまいます。しまいにはポンプに負担がかかりすぎて、水を送り出す機能がさらに低下してしまいます。つまり、心臓が血液を送り出す力が徐々に低下し、いわゆる‘心不全’という状態になります。
この様に、心臓と腎臓は、一方の機能が低下するともう一方の機能の低下につながる、という密接な関係にあります。これを「心腎連関症候群(Cardiorenal Syndrome:CRS)」といいます。
次は心臓と腎臓のお互いの視点から、どの様な影響を及ぼしあうのかまとめました。
心臓病の人の腎臓が悪くなると・・・
心臓病の方が長生きできるかどうかを決める要素の一つに腎臓病が含まれています。心臓のポンプ機能が低下した状態である心不全の場合、腎機能低下が最も重要な予後規定因子の1つとされています。特に腎臓の機能を表す「eGFR」という値が下がれば下がるほど、寿命が短くなったり、心臓病が悪化して入院しやすくなることが知られています(Damman K,et al.Eur Heart J.2014)。
松下らの報告では、腎臓の機能を表す「eGFR」と、心臓病で亡くなるリスクについてまとめています。腎臓の機能が正常(eGFR=95)の方と比べ、腎臓の機能が少し低下している人(eGFR=60)は1.4倍、中等度低下している人(eGFR=45)は1.99倍、非常に低下している人(eGFR=15)は2.66倍、心臓病で亡くなる可能性が高くなる、と報告しています。
また、心筋梗塞の特徴的な症状である胸の痛みについても、腎臓病の方は痛みを感じにくい、という報告もあります(Sarnak.J Am Coll Cardiol 74:1823-1838,2019)。
心筋梗塞は命に関わる病気ですので、危険信号に気付けない、と考えるとゾッとしますね。
心筋梗塞についてはこちらの記事も参考にしてください。
心臓病で腎臓も悪くなってきても長生きの為にできることは?
心臓と腎臓はいずれも様々な病態があり、これさえすれば心臓病や腎臓病になりません!という素晴らしい方法はありません。しかし、いずれも生活習慣が大きく関わっている病気であり、生活習慣の改善が心臓・腎臓を守ることにつながります。
つまり、食事療法と運動療法が基本となります。
今回は、特に運動の重要性を強調したいと思います。
心臓の機能が悪い人の中で、腎臓の機能と体力について比較した文献があります。この報告では、腎臓の機能が非常に悪いが体力のある人は、腎臓は少し悪いが体力のない人よりも長生きする、とも言われています(Scrutinio,et al.Circ J.2015)。
つまり、心臓病の方にとって腎臓の機能の良し悪しが長生きできるかどうかを規定していますが、それ以上に体力があるかどうか、が重要ということになります。
また、以前は腎臓病の方に積極的な運動を行うことは避けられていましたが、最近は運動を継続することで腎臓の機能を維持することができる、といわれています。
体力をつけるためには、なんといっても体を動かすことが重要です。座っている時間を減らすだけでも寿命を伸ばすことができます!
まとめ:心臓と腎臓を守るために
心臓と腎臓は、一方の機能が低下するともう一方の機能の低下につながる、という密接な関係にある。
腎臓が悪くなると心臓病で亡くなるリスクや病気の信号に気が付けなくリスクが高まる。
心臓病や腎臓病の治療には、生活習慣の改善のため、食事療法や運動療法が非常に重要です。
運動を取り入れるために、まずは座りっぱなしの時間を短くすることから始めましょう!
次は腎臓病と運動についてまとめますので、ぜひ参考にしてください。