こんにちは、循環器専門医のマルです。
本日は年を重ねると皆さん不安になる病気である心房細動について解説をします。
心房細動の事ご存じですよね?もしご存じないのであれば、この記事を読むことであなたは将来の自分を介護状態から守れるかもしれません。
この記事では心房細動からあなたの身を守るために病院の外でもできる事を紹介します。
この記事を書くきっかけは私の患者さんからの次のような質問です。
ホルター心電図で上室性期外収縮が1日1万発でていました。気を付ける事はありますか?
上室性期外収縮は安全な不整脈なので一安心です。ただし、実は1日100発以上でていると将来心房細動になる可能性があります。特に1000発以上あった方の40%は心房細動になると言われています。(2020 年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン)
期外収縮ですので、今は心配ないですが、将来心房細動になる危険があるので、注意が必要です。
そうですか。でもどうやって?Apple watchは役に立ちますか?
という事で、今回は心房細動のリスクがある人が早期発見するためにApple watchで工夫できないかという観点で記事にまとめます。
心房細動について
まずは、簡単に心房細動について復習です。
詳しくはこちらの記事を参考にして下さいね。
心房細動は心房が弱ってくると出てくる不整脈です。年齢と共に心臓も劣化するので、心房細動になる人は多くなり、なんと、80歳台では10%に心房細動があると言われています。(心房細動の疫学と病因論)
ですので、心房細動は他人事ではないのです。あなたにも年を重ねると知らないうちに心房細動が発症するかもしれません。
前述の期外収縮が多い人や、心臓の病気がある人、心不全と言われている人など、さらに心房細動が発症しやすい人もいます。
心房細動の怖いところは、こちらが気づかないうちに、人知れず、脳梗塞の元なる血栓を大きく大きく育てていく事です。
心房細動は出たり止まったりを繰り返します。血栓は心房細動が止まった時に心房の壁から離れて血流にのって飛んでいくとされています。
心房は大きな血栓を作るには十分なスペースがあります。血栓が大きくなればなるほどそれが詰まって起こる脳梗塞は大きくなります。
そんな忌々しい心房細動が血栓を大きくする前に、気が付いて、脳梗塞の予防をしたいと思うのはあなただけではないでしょう。
なぜなら、脳梗塞は命にもかかわる病気ですし、何より半身不随になるなど、あなたから自由とあなたらしさを奪う怖い病気だからです。
心房細動を見つける事ができれば、血栓を溶かす薬があります。脳梗塞の予防はできるんです。心房細動にさえ気が付けば。
Apple watchで心房細動を見つける方法
Apple のサイトによれば、心房細動の発見につながりそうなのは以下の3つの機能です。(watchOSで利用できる機能)
①心房細動履歴:現時点(2023年11月19日)では日本では使用できません。
→(修正)2024年5月より日本でも使用可能になりました。PMDAに認められたそうです。現在は心房細動と診断された人のためのものという立ち位置のようで、心房細動が1週間のうちにどれぐらいの時間出ていたかを検出するもののようです。
診断された人に使用が限定されているといっても、アプリ起動時に自分で”ポチ”っと診断ありを選択するだけのようで、医療機関で設定したりなど特別な作業は不要です。
②不規則な心拍の通知
③心電図
心房細動履歴はすでに心房細動と診断されている人のための機能ですので、心電図と不規則な心拍の通知を使って心房細動を検出する事ができるか見ていきましょう。
不規則な心拍の通知
時々心拍を確認して、心房細動を示唆する不規則な心拍リズムがないかどうかチェックする機能です。
通常は、より正確な測定値が得られるよう、ユーザが静止している時に計測されます。ユーザがどれだけ活発に動くかによって、1 日あたりの測定回数や、どのくらいの間隔を置いて測定されるかが異なります。
最低65分以上の時間をかけて5回の心拍リズムのチェックを行い、不規則な心拍リズムが検出されるとユーザーに通知するという仕組みになっています。
(Apple Watch:心臓の健康に関する通知)(Apple)
どのように不整な脈を検知しているかという事について詳しく記載がある論文があったので、それを基に解説します。
Apple watchは背面についている、光学式心拍センサーによって、その部分を通過した血流を検知しています。心臓が収縮するたびに血流が増え、図にすると以下のような山が形成されます。この山のピークの間が心臓の収縮して次に収縮するまでの間の時間であり、これを使って脈拍を計算しています。
この山と山の間が一定ではなく、変に長かったり短かったりするとアルゴリズムにひっかります。
1度アルゴリズムにひっかかると、腕があまり動いていない時間を狙って、4回脈が本当に不整になっているかどうかを確認します。
そこで4回とも不整であると確認された場合に、不規則な心拍の通知がでるという事になっています。
研究では「脈の不整」通知を受けた参加者のうち、34%が心電図パッチで心房細動があり、通知の84%が心房細動に一致していたという結果になっています。
つまり、不規則な心拍の通知は心房細動を見つけるきっかけになります。
ただし、脈の不整=心房細動ではないので、心房細動かどうかを調べるためには、さらに詳しい検査が必要です。
例えば、上室性期外収縮と心房細動との区別はできません。
上室性期外収縮でも不規則な心拍は反応してしまうでしょう。
今回相談されたケースでは、すでに上室性期外収縮が1日1万発出ている状況でしたので、この方の場合は、この不規則な心拍の通知だけでは、心房細動の早期発見にはつながらないと思われます。
使用するための条件
Apple Watch Series 3以降で利用できる。(Apple)
iPhone を最新バージョンの iOS にアップデートし、Apple Watch を最新バージョンの watchOS にアップデートする。
心電図
Apple watchは1誘導の心電図を取る事ができます。
詳しい評価には限界がありますが、心房細動程度であれば判断はできるのではないかと思います。心房細動の検出力についてはApple Heart Studyという有名な研究があり、お墨付きです。
実際のApple watchでとった心電図は以下のような感じになります。
P波も同定できますし、基線もまっすぐですので、心房細動が混じっていればそれを見つけるのは簡単そうです。
やはり、Apple watchで心房細動を早期に発見するには心電図の機能が使えるものがいいでしょう。
今回相談されたケースでは、上室性期外収縮が出ていますが、これだけP波が見えるなら、心房細動との区別も可能ではないかなっと思います。
心電図アプリの使い方はApple のサイトに写真付きで解説されていますので、そちらをご参照ください。
使用するための条件
Apple Watch Series 4 以降およびすべての Apple Watch Ultra モデルで利用できる。(Apple)
iPhone を最新バージョンの iOS にアップデートし、Apple Watch を最新バージョンの watchOS にアップデートする。
循環器専門医が作るApple Watch専用運動支援アプリ
現在、循環器専門医がApple watch専用の運動支援アプリを開発中です。
循環器専門医の脈拍に基づいた運動強度の設定のノウハウと、Apple watchの精度の高い脈拍計測を掛け合わせた世界で初めてのアプリです。
「せっかく運動するなら、無駄にならないいい運動にしたい」「そろそろ真面目に運動しないと」と思っている方にお勧めです。
ご興味がある方は、以下のLINEにお友達登録をお願いいたします。開発状況など最新情報を共有いたします。
まとめ
- 心房細動は脳梗塞の元になる大きな血栓を心房で作る怖い病気です
- 早く心房細動を見つけ、血栓を溶かす薬を使う事で、脳梗塞を防ぎましょう
- Apple watchの不規則な心拍の通知と心電図は心房細動の早期発見に繋がります
- すでに上室性期外収縮が出ている人など詳しい評価が必要な人は心電図の機能まである方がいいでしょう