ずぼら運動学

健康づくりのための活動量の目安ー身体活動基準2023(仮称)の解説

厚生労働省では、2013年に「健康づくりのための身体活動基準・指針2013(アクティブガイド)」を策定しました。そこでは健康づくりのための指標として「+10(プラス・テン)」という言葉が用いられています。普段の活動や運動時間をまずは10分増加することを推奨しています。

そして現在、その内容の改訂に向けて検討会が開催されており、先日「身体活動基準2023(仮称)」が公表されました。今回はその内容についてまとめます。

今回の改訂ポイント

2013年に策定されたアクティブガイドから、今回の改訂案では身体活動の項目が以下の図のように変更になりました。

そして図にあるように、

  • バランス運動、柔軟運動などの多要素な運動を週3日以上行うこと、
  • 筋力トレーニングは週2−3日行うこと
  • 座位行動を減らすこと

が新たに追加されています。

ただし、体力は一人一人違いますし、併存疾患の有無によっても最適な活動量は異なります。

今回の改訂でも、

  • 個人差などを踏まえ、強度や量を調整、可能なものから取り組む
  • 今より少しでも多く身体を動かす

ということも併せて記載されています。

身体活動の強度目標であるメッツは増加

身体活動」とは、安静にしている状態より多くのエネルギーを消費する、骨格筋の収縮を伴う全ての活動、と定義されています。つまり普段行っている家事や買い物などに伴う活動と、筋力・体力を向上させるために行われる運動のいずれも「身体活動」に含まれます。

その強度の指標である「メッツ」についてはこちらの記事を参考にしてください。

2013年のアクティブガイドでは週10メッツ・時以上を目標に設定されていましたが、今回の改訂では週15メッツ・時以上に変更されています

Fukushimaらの文献によると、強度が3メッツ以上の身体活動を週15メッツ・時以上行う高齢者は、身体活動をほとんど行わない高齢者と比べて、心臓病など様々な要因で死亡する可能性を30%低下させた、と報告されています。

また、身体活動の目標値を達成できていない場合でも、死亡率の軽減効果は認められているので、まずは少し身体活動を増やすことから始めてみましょう。

筋力トレーニングの重要性

心臓病の方に勧められている運動は有酸素運動と筋力トレーニングです。これらの運動を行うことで、血管の機能の改善、心機能の改善、体力の改善などにつながります。

有酸素運動をしっかり行ってるから大丈夫!と思われるかもしれませんが、それだけでは足りません。こちらの記事も参考にしてみてください。

そして今回の改訂では、筋力トレーニングを週2−3日実施するように、と記載されました。

Mommaらは筋力トレーニングを行うことで、心臓病になる可能性が軽減することを報告しています。

この報告では、上の図にあるように、週60分の筋トレを行うことで心臓病を発症する可能性が18%軽減するとされています。そして興味深いことに、週130分を超えると心臓病を発症する可能性が高くなるとされています。つまり、筋トレのやりすぎもかえって危険である可能性がある、となります。

そして同じ報告では、有酸素運動と筋トレを組み合わせて行うことが、最も死亡率の軽減につながるとされています。

上の図は、何も運動をしていない場合を”1”とした時に、有酸素運動のみ、筋トレのみ、有酸素運動+筋トレを行った場合の死亡率を表しています。

有酸素運動+筋トレでは、全ての病気での死亡率は40%減少、心臓病での死亡率は46%も減少させる、と報告しています。

高齢者は有酸素運動と筋トレだけでは足りない

高齢者が転倒する原因は、内的要因(=身体機能や薬、病気の影響)と外的要因(=段差、滑りやすい床など環境面の要因)の2つに大別されます。

内的要因の具体例としては、

  • 筋力、バランス能力の低下
  • 姿勢の変化:圧迫骨折で背中が丸くなった、膝が伸びなくなった、など
  • 視力や聴力などの感覚機能の低下
  • 立ちくらみ、めまいなどの身体症状
  • 血圧を下げる薬、睡眠薬の影響

などが挙げられます。心臓病の方は多くの薬を飲んでいることが多く、薬の量が多い場合も転倒の可能性を高くする要因と言われています。しかしこれは心臓の機能を守るためには避けられない要因です。

それに対し、筋力やバランス能力の低下は、トレーニングを行うことで維持・改善が期待できる要素になります。

バランス運動などの多要素の運動を取り入ることで転倒リスクを下げることは、多くの研究で報告されています。WHOのガイドラインでも高齢者にバランス運動などの多要素の運動を行うことで、転倒リスクを23%下げた、と記載されています。

今のご自身の身体機能を簡単に測定する方法として、SPPBというテストがあります。短時間でチェックできるので、一度実施してみてください。SPPBについてはこちらを参照してください。

座りっぱなしの時間を減らしましょう

テレビを見たり、寝転んだりするような、身体活動の強度が低い(1.5メッツ以下の)活動を長時間行うことは、死亡率の増加につながります。長時間座りっぱなしにならないように、こまめに身体を動かすだけでも効果があります。

座りっぱなしの弊害についてはこちらの記事にまとめています。

まとめ

  • 歩行やそれに相当する活動を、1日40分以上行うことが推奨されています。
  • 歩行や筋トレ、バランス運動など、様々な運動を行いましょう。
  • 座りっぱなしの時間を減らすことが重要です。
  • まずは負担のかからない範囲の運動から開始し、少しずつ身体活動量を増やしましょう。

参考:健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023(案)

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