何らかの病気を持っている人だけでなく、健康な方でも、怪我の予防や疲れを残さないために、運動の前後でストレッチをしている方は多くいるのではないでしょうか。
心臓病の方に対するリハビリテーションのガイドラインにも、ウォームアップやクールダウンでストレッチを行うべき、と記載がされており、以下の写真も掲載されています。
ただ、ストレッチも何気なく行うだけでは十分な効果は得られません。また、しっかりとストレッチを行うことで、心臓病を予防することができる、という報告もあります。
今回は、そんな何気なく行いがちな“ストレッチ”について、目的や効果などすこし掘り下げてみようと思います。
ストレッチの種類と目的
皆さんは“ストレッチ”と言われると、どのような動きを想像しますか?
多くの方は、筋肉が伸びている状態を維持して、硬くなった筋肉を伸ばすようなイメージを持つのではないでしょうか。もちろん、これもストレッチの中の一つです。
実は単に“ストレッチ”といっても、大きく分けると2つの種類があります。
スタティック(静的)ストレッチ
これはまさに、先ほどのような「筋肉が伸びている状態を維持して、硬くなった筋肉を伸ばすような」ストレッチになります。
イメージしやすい例としては、以下のように座って太ももの裏側を伸ばしたり(左写真)、立ったままふくらはぎの筋肉を伸ばす(右写真)ようなストレッチになります。
このストレッチでは筋肉の端に存在する「筋肉の伸び具合」を検知するセンサーを刺激して、硬くなった筋肉を緩めることを目的としています。
1回あたり20〜30秒程度、じわ〜っと筋肉を伸ばすことで、筋肉が緩み、柔軟性が高められ、関節を動かすことができる範囲(関節可動域)が拡大する効果も得られます。また、痛みを軽減したり、リラックスする作用も持っていると報告されています。
ダイナミック(動的)ストレッチ
先ほどのスタティックストレッチとは異なり、ダイナミックストレッチは筋肉を動かすことで、筋肉の柔軟性を高めるストレッチになります。ラジオ体操もダイナミックストレッチの中の一つにあたります。
ダイナミックストレッチは、ある筋肉を収縮させると、その反対の作用を持つ筋肉が緩む、という作用(例えば、肘を曲げる筋肉を強く収縮させると、反対の肘を伸ばす筋肉が神経の作用で緩む)を利用したストレッチです。
このストレッチも筋肉の柔軟性を高める作用がありますが、先ほどのスタティックストレッチよりも効果は弱いとされています。一方で、ダイナミックストレッチは筋肉の収縮を伴うため、筋肉の温度を上げ、より筋力を発揮しやすくなることも報告されています。
ちなみにダイナミックストレッチの中にも、バリスティックストレッチやPNFストレッチなど様々な種類がありますが、詳細は割愛させていただきます。
どのタイミングで行うのが効果的?
先ほど述べたように、ストレッチはやり方によって効果が異なります。
メインで行う運動(歩行や自転車漕ぎなど)の前は、筋肉の温度を上げ、より体が動かしやすくなるようにする必要があるため、“ダイナミックストレッチ”を行うことがおすすめです。
スタティックストレッチを運動前に行う際は、実施時間に注意が必要です。
実はスタティックストレッチは実施時間が長くなると、筋肉が緩みすぎて筋力が低下することが多く報告されています。特に、1回あたり30秒以上、筋肉をじわ〜っと伸ばすと筋力が有意に低下することがわかっているため、運動前は30秒以内に留めておくことをオススメします。
反対にメインで行う運動の後は、疲労の軽減や運動によって緊張した筋肉をリラックスさせる必要があるため、スタティックストレッチを行うことをオススメします。筋肉の硬さを取り除く効果はストレッチの実施時間に依存する、つまり長時間かけて筋肉をじわ〜っと伸ばすストレッチを行うことで、より筋肉の柔軟性が高められることもわかっています。
また、運動後に遅れて出てくる筋肉痛(遅発性筋痛)に対してスタティックストレッチを行うと、痛みの感じる程度が減少した、という報告もあります。
以上をまとめると、
- 運動前・・・ダイナミックストレッチで筋肉が動きやすい状態を作る
- 運動後・・・スタティックストレッチで筋肉をリラックスさせる
ことが重要、となります。
ストレッチと心臓病の関係について
ここまで、ストレッチと筋肉の関係についてまとめてきました。
ストレッチと心臓病に影響をあたえる項目についての関係についてまとめた報告を、Thomasらが行っています。その報告によると、ストレッチを行うことで心拍数を減少させ、血管の硬さを改善(つまり血管が柔らかくなる)することがわかりました。また、長期間ストレッチを行うことで、血圧を下げる効果がある可能性についても言及されています。血圧は血管の硬さと心臓がどれだけの血液を送り出すか、で決められます。つまり、血管が柔らかくなれば、血圧は下がる可能性があると考えられます。
少なくとも、ストレッチを行うことで心臓病に悪影響を及ぼす可能性は高くなく、むしろ血管を柔らかくしたり、体の柔軟性を高めることで動きやすい身体を作ることができ、さらには怪我の予防効果がある、と言えます。
まとめ
- ストレッチは筋肉の柔軟性を高めるだけでなく、血管を柔らかくする効果もあります
- 運動前は、ラジオ体操のような筋肉を動かすストレッチを行いましょう
- 運動後は筋肉をじわ〜っと伸ばすようなストレッチを行い、筋肉の柔軟性改善や疲労感の軽減を図りましょう