ずぼら運動学

心臓に優しい生活:負荷を減らすための実践ガイド

心臓に負荷をかけるのが怖いですか?

自分の心臓は弱いから、心臓病になった経験があるから、家族が心臓病で自分も心臓病になるのではないかと心配だから。

不安の原因はいろいろです。

この記事に興味を持ったあなたも、何か心臓が弱いかもと心配になることがあり、近所の坂道や階段を上る時に、心臓に無理をさせていないかどうか心配になることがあるのではないでしょうか。

医師として患者さんと接していると、このような心配を抱える方が非常に多いです。

循環器専門医マル

そこで、今回は、心臓へ負担をかけすぎているのではないかと心配な人のために、

心臓に負担をかけすぎないように生活するコツをお教えしたいと思います。

心臓に負担をかけることが心配な人は多いです

初めに、心臓への負荷が心配なのはあなただけではないという事というデータを2つお示します。

心臓病患者さんの78%が不安を抱えています

以前、国立循環器病研究センターで私が心臓リハビリテーションを担当した方にそれぞれ1時間ほどじっくりとお話を聞いたことがあります。

日常生活で不安を持っていると答えた27名の78%にあたる、21名の方は「心臓へ負担をかけすぎるのが怖い」とお答えでした。

  • 家の近くの階段や坂道を上るときに不安
  • 孫と遊ぶのも負荷になるかもしれないので避けている
  • 趣味だったテニスをやめてしまった
  • 電車で通院するのも怖くて退院したくない

などなど。それぞれが直面する問題は色々ですが、皆さん心臓病になってしまった自分の心臓が元の自分の生活に耐えれるかどうかわからず不安を感じているようでした。

というもの、もし心臓が生活に耐えれないのならば、また心臓病になってしまうかもしれないからです。

  • 心臓病が発症してまた苦しい思いをしたくない
  • 心臓病が発症するとまた家族に迷惑をかけるかもしれない

そんな、思いが恐怖を作っているようでした。

あなたがもし心臓病をお持ちなら、同感されているのではないでしょうか?

60代の方の13%が不安を抱えています

日常生活で心臓に負担をかけすぎているのではないかという不安は、実は、心臓病の方に限ったものではありません。

心臓病になっていなくても、心臓病の家族や知人の様子を見ていたり、健診で心臓の異常を指摘されたり、など心臓の事を気にされている方は多いです。

当社で独自に行った調査によれば、60代の方の13%が心臓への負担に対する不安を抱えていました。(LINEリサーチ: アンケート対象:106名、男性 52名(49%), 平均年齢 63歳)



いかがでしょうか。心臓への不安の大きさは人それぞれからもしれませんが、あなたが抱える不安は他にも多くの人が抱えているものなのです。一人で悩むのはやめてくださいね。

この記事では、あなたが生活での不安が少しでも安らぐように、正確な医学知識を基に、すぐに使える方法を提案していきます。

負荷をかけすぎると確かに悪いです

彼を知り己を知れば百戦殆からず

対策を練る前に、まずは、心臓に負担をかけすぎることが本当によくないのかを確認しましょう。

結論:やっぱり負荷のかけ過ぎは危険です。

いくつか例示します。

血圧上昇で心不全が増悪することも

運動の負荷量が高ければ高いほど血圧が上がります(Biomed Res Int. 2016:2016:5607507)。

血圧の上昇は心臓にとって負荷になり(後負荷と呼びます)、肺に水が溜まり、急激に息苦しくなることもあります(日本心臓病財団)。

過度の心臓への負担の蓄積で・・・

  1. 心筋損傷と心負荷: 過度な運動は、心筋に微細な損傷を引き起こす可能性があります。トロポニンという心筋損傷のマーカーが運動後に上昇することがあり、これは一時的な心筋のストレスや損傷を示唆しています(Neilan TG, et al., Circulation, 2006)。この研究ではマラソン後の肺動脈圧やBNPの上昇も確認されており、心負荷がかかっていると判断できます。
  2. 心房細動: 激しい運動は、心房細動のリスクを高めることが知られています。心房細動は、不規則な心拍を引き起こし、心臓の効率を低下させる可能性があります(Aizer A, et al., Am J Cardiol, 2009)。この研究では1982年に40歳から84歳の16,921名を平均12年間追跡調査されました。その間に1,661名が心房細動を発症しました。激しい運動は、「汗をかくほどの運動」として定義され、激しい運動の習慣がない人に比べて、激しい運動を週に1~2回、3~4回、5~7回行う人は、それぞれ心房細動になるリスクが9%,4%,20%増加するという結果になっています(p=0.04)。特に激しい運動による心房細動のリスクの増加の傾向は50歳未満の男性と、ジョギングする人で顕著な傾向があったとされています。
  3. 冠動脈疾患: 長期間にわたる過度な運動は、冠動脈の健康に影響を与えることが示されています。一部の研究では、極端な運動が冠動脈のプラーク蓄積に関連していることが報告されています(Möhlenkamp S, et al., Eur Heart J, 2008)。この研究で対象になった集団は50歳以上の男性で3年間で5回以上のマラソン大会に出場している人です。
  4. 心筋の線維化: 心筋の繊維化は心筋の障害を示します。長期間の過度な運動は、心筋線維の変化を引き起こし、心臓の構造に変化をもたらすことがあります。これは、心臓の機能に長期的な影響を与える可能性があります(Tahir E, et al., J Am Coll Cardiol Img 2018;11:1260–70)。この論文で運動による血圧の上昇が心筋繊維化と関係が示唆されています。

あなたが心配しているように、やはり心臓に負担をかけすぎるのは、短期的にも長期的にも体にはよくありません。

負荷をかけすぎない工夫が必要です。

負荷が強すぎるときのサイン

心臓に負荷をかけすぎないようにするためには、

心臓に負荷がかかりすぎている時のサインを見逃さないことが重要です。

日常生活であなたも使えるような、3つポイントに厳選して紹介します。

  1. 息が上がりすぎて話せない(肩・胸・腹などを動かして呼吸している)
  2. 運動を続けるのがつらい(ボルグ指数14以上)
  3. 胸が苦しい・痛い

ボルグ指数とは疲労の自覚症状を数値化するものです。6~20までの段階があります。

これだけ覚えて、いずれかのサインが出た時は、休憩をするようにしてください。

特に③については狭心症の可能性があるので、症状がなくなるまで休みましょう。症状が取れない場合は急いで病院に、症状がなくなっても早めに病院に行く方がいいでしょう。

負荷をかけすぎない工夫

まずは上のサインを覚えて、休むべき状態になれば、休むという事が重要です。

他にも、生活で取り入れらそうな工夫をいくつか紹介します。

息を止めない

特に運動中や重いものを持ち上げる際に息を止めないようにすることが重要です。息を止めると、一時的に血圧が急上昇することがあります。リズムよく呼吸をすることで、血圧の急上昇を避けることができます

気候にあった服装を着る

寒い環境では血圧が上がりやすくなるため、適切な防寒対策が必要です。暖かい服装を心がけ、特に手足が冷えないようにすることが大切です。しかし、夏の暑い時期に厚着しすぎると逆に体温が上がりすぎ、血圧が上昇する可能性があるため、適切な服装を選ぶことが重要です

ストレスを避ける

ストレスは血圧を上昇させる大きな要因の一つです。人混みや長時間の待ち時間など、ストレスを感じる状況を避けるように工夫します。可能であれば、混雑する時間帯や場所を避け、リラックスできる環境を選びましょう

こまめに脈拍を計測し負荷量を見える化する

心臓への負荷が多きければ大きいほど脈拍は上昇します。心臓リハビリテーションという心臓病患者さんのための運動療法では脈拍に基づいて運動強度を処方します。

脈拍は自分の手で触れて数えることもできます。

現在では多くのスマートウォッチが発売されており、それらを購入してすぐに確認できるようにするのもいいかもしれません。

因みに、脈拍の制度は機種によってまちまちで、私のお勧めはApple watchです。

よくあるQ&A

心臓の負荷に関するよくある質問とその回答をまとめました。

Q: 心拍数はどのくらいが適切ですか?

A: 適切な心拍数は個人差があります。一般的には最高心拍数の70%前後が適切な運動強度の目安です。(心大血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン

Q: 運動後に息切れがするのは正常ですか?

A: 軽度の息切れは通常ですが、長時間続く場合は注意が必要です。

Q: 休むところがありません

A: ベンチなど座れるところがあるのが理想ですが、階段や坂道の途中にそんな場所はなかなかありませんよね。その際はどこか立ち止まりやすい場所で、立ってでもいいので一息つくようにしてください。

Q: 心臓への負荷をかけたくないので、外出を控えるようにしています

A: 心臓には過度に負荷をかけてはいけませんが、負荷を全く欠けないのも問題です。

運動量が少ない人は心臓病の再発率が高く死亡率が高いことは知られています。外出自体をなくすのではなく、休憩を入れるなら工夫をして、積極的に外出するようにしましょう!

負荷量を確認してみよう

近所の坂道や階段など特定の場所でいつも不安を感じるのであれば、一度心臓に負荷がかかりすぎているのかどうか、確認してみましょう。

そして、どこで休めばいいのかを検証してみましょう。

いつもどこで休めばいいかさえ分かれば、もう不安を感じつ必要はありません。

ここまでの内容をもとにチェックシートを作りました。

シートの使い方を説明します。

  1. 坂や階段を上り始める前に脈拍と疲労度(ボルグ指数)を確認し、記載してください。
  2. いつも通り坂や階段を上がってみて下さい
  3. 上がり終わったら、脈拍を確認し記載してください
  4. 疲労度(ボルグ指数)を確認し記載してください
  5. 息が上がりすぎている、きついと感じる、胸が痛いなどの症状があれば、チェックをつけましょう
  6. 1分後にも同様に、脈拍・ボルグ指数・症状を確認します
  7. 2分後にも同様に、脈拍・ボルグ指数・症状を確認します

ボルグ指数が14以上、もしくは何か症状のチェックが入れば、途中で休憩する方がいいです。

脈拍は負荷量の確認で使用してください。

今度は、途中で休憩を入れてみましょう。

  1. 坂や階段を上り始める前に脈拍と疲労度(ボルグ指数)を確認し、記載してください。
  2. 休憩する場所まで来たら、止まって、脈拍を確認し記載してください
  3. 疲労度(ボルグ指数)を確認し記載してください
  4. 息が上がりすぎている、きついと感じる、胸が痛いなどの症状があれば、チェックをつけましょう
  5. 1分後にも同様に、脈拍・ボルグ指数・症状を確認します
  6. 2分後にも同様に、脈拍・ボルグ指数・症状を確認します
  7. その後通り坂や階段を上がり切ってください
  8. 上がり終わったら、脈拍を確認し記載してください
  9. 疲労度(ボルグ指数)を確認し記載してください
  10. 息が上がりすぎている、きついと感じる、胸が痛いなどの症状があれば、チェックをつけましょう
  11. 1分後にも同様に、脈拍・ボルグ指数・症状を確認します
  12. 2分後にも同様に、脈拍・ボルグ指数・症状を確認します

休憩に入る際にすでに、ボルグ指数が14以上、もしくは何か症状のチェックが入れば、1分後、2分後で消えたか確認します。チェックが外れる時間だけ休憩をするようにしてください。

医療機関用 小冊子:ご自由にダウンロードしてお使い下さい

今回の内容は小冊子としてまとめています。A5サイズで全8ページですので持ち運び安くなっています。ぜひダウンロードをしてご活用ください。

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もし医療機関での使用をご希望の場合は、東京都内であれば製本して郵送させて頂きますので、以下のお問合せページからお問合せ下さい。

それでも不安な人のためのサービスの紹介

この記事の内容で少しでもあなたの生活の不安が軽くなることを願っています。

とはいえ、知識を応用して行動に移すことはなかなか難しいことです。

私も病院の中でいくら知識を提供しても行動できない患者さんを多く見てきました。

知識だけでは限界なんです。

だから、私は病院の外で、実際の患者さんの生活の場に行き、脈拍などを一緒に計測することで、心臓に負担がかかりすぎていないか、かかりすぎているならばどこで休憩をすればよいかを助言するサービスを開始しました。

「この踊り場で1分」「このカーブミラーのところで1分半」など具体的なプランを一緒に決めることができます。

私が直接行きますので、私の自宅の近くでしかサービスは提供できていません。

現在、文京区と千代田区のみが対象です。

ご興味がある方は、以下のサイトの内容をご参照ください。

まとめ

  • 心臓への負荷に対する不安は多くの方が抱えています
  • 心臓に負荷をかけすぎると心臓を傷めてしまうことがあります
  • 心臓に負荷をかけすぎているサインを見逃さないでください
    • 息が上がりすぎて話せない(肩・胸・腹などを動かして呼吸している)
    • 運動を続けるのがつらい(ボルグ指数14以上)
    • 胸が苦しい・痛い
  • 一度心臓に負荷がかかりすぎているのかどうか、確認してみましょう

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