こんにちは、循環器専門医のマルです。
このブログを読んでくださっている方の中には、「無症候性心筋虚血(むしょうこうせいしんきんきょけつ)」と診断された方や、ご家族が診断を受けたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「無症候性心筋虚血」──字面だけでも難しそうで、怖い印象を持つ方も多いと思います。
このブログでは、循環器専門医であり医学博士でもある私が、これまで何百人と診てきた経験をもとに、無症候性心筋虚血についてやさしく解説していきます。
本記事の内容はYoutubeで動画で解説もしていますので、こちらも併せて参考にしてください。
無症候性心筋虚血とは?
病名の意味
- 無症候性:症状がない
- 心筋:心臓の筋肉
- 虚血:血液が足りていない状態
つまり、「心臓の筋肉に血液が足りていないのに症状が出ない状態」を指します。
わかりやすく言えば?
心筋と血液の関係は、農地と水路に似ています。

水が通らなくなった農地の植物が徐々に枯れていくように、心筋も血液(酸素と栄養)が足りないと機能が低下していきます。
通常なら、血液不足は「胸の痛み(狭心症)」という形でサインを出します。
しかし、無症候性心筋虚血では痛みが出ません。
放置するとどうなるの?
虚血の「範囲」によって影響は大きく変わります。
- 小さい範囲なら、心臓全体の働きにはあまり影響しません。
- 大きな範囲だと、心不全や命に関わる状態になることもあります。
例えるなら、水路の詰まりが小さな一角にあるのか、大元の水路にあるのか、という違いです。
なりやすい人の特徴
以下の人は、無症候性心筋虚血に気づかずに進行している可能性が高いため要注意です。
- 糖尿病のある人
神経障害により「痛みを感じにくくなる」ためです。 - 高齢者
加齢による感覚の鈍化で、症状が出にくくなります。
診断の流れ
多くは、術前検査や健康診断で見つかるケースが多いです。
診断の流れは以下の通りです。
- 循環器内科で検査の依頼がある
- 心筋シンチグラフィや運動負荷試験を行う
- 怪しい所見があれば、冠動脈CTや造影検査で血管の状態を確認
- 狭窄(せまくなった場所)が見つかると診断される
治療方法
1. カテーテル治療(ステント治療)
- 虚血の範囲が広い場合に推奨されます。
- 心臓の血流不足が深刻な領域をカバーするために行います。
- 心筋シンチグラフィで虚血領域の割合が計算され、5〜10%以上が目安となることも。
2. 内科的治療(再発予防)
虚血の範囲が小さい場合や、再発予防のためには以下が重要です。
- 薬物治療:血液をサラサラにする薬、コレステロールを下げる薬など
- 禁煙:電子タバコも含めて完全禁煙が望ましい
- 食事:減塩・低脂肪・血圧を下げる内容に
- 運動:週150分程度の適度な有酸素運動で血圧を下げ、動脈硬化を防ぐ
見逃してはいけない3つのサイン
無症候性心筋虚血では胸の痛みが出ないため、以下の症状を見逃さないようにしましょう。
1. 息切れ
- 特に階段や坂道での動作時に目立ちます。
- 心不全の初期サインの可能性あり。
2. むくみ・体重増加
- 足のむくみ
- 急に1〜2kg体重が増える
- 心臓のポンプ機能低下により体内に水がたまりやすくなります。
3. 動悸(どうき)
- ドキドキと心拍が乱れる感じ
- 心筋虚血によって不整脈が誘発されることも
まとめ
- 無症候性心筋虚血は症状が出ない心臓の血流不足。
- 痛みがないため、気づかれにくく、心不全や不整脈の原因になることがあります。
- 診断は検査でしかわからず、治療は虚血の範囲に応じて行われます。
- 再発予防には薬、禁煙、食事、運動が重要です。
- 息切れ、むくみ、動悸など、胸痛以外のサインに注意を。
本記事が少しでも不安の解消に役立てば幸いです。
ご質問や知りたいテーマがあれば、ぜひコメントで教えてください。
それでは、今日も健康であなたらしい一日を。