心筋梗塞でカテーテル治療を受けた事をきっかけに、定期的な運動を心がけています。
最近スマートウォッチを付けながら運動している人が増えているので、私もスマートウォッチで脈拍をはかったりしたいなぁと興味を持っています。
でも、種類が多すぎてとても選べません。。
確かに、運動中に脈拍を管理する事は心臓病の方にとって重要です!
私は以前、生理学の研究を行っておりApple watchを使ったスマートウォッチの精度についての研究にもすこし関わっていましたので、スマートウォッチの精度について科学的に解説しますね。
実は、機種によって精度がまちまちなんです。
結論から言えば、個人的には現状はApple watchが心拍数の精度がいいのではないかと思います。
心臓病における心拍数計測の重要性
心拍数とは、心臓が1分間で何回拍動するかを示す指標です。心臓の状況の把握や適度な運動を行う際などに、重要な情報となります。
心拍数の正常範囲は、安静時の心拍数が1分間に60~100回であることが一般的であるとされていますが、心拍数の正常値の範囲は、人によって異なります。年齢や身体的な活動レベル、飲んでいる薬、病態が関係するので自分にあった脈拍を見つけることは重要です。
心拍数の計測は、心臓の状態を確認するために役立ちます。例えば、心臓病の治療を受けている人は、心拍数を測定することで、治療が効果的かどうかを確認することができます。
また、健康的な生活習慣を維持するための指標としても使われます。日常的な身体活動レベルやストレスレベルの変化に応じて、心拍数は変化することがあります。健康管理のためにも、心拍数を把握することが大切です。
加えて、心臓病の再発を防ぐためにも定期的な適度な運動は重要ですが、心拍数によって適度な運動のレベルを定める事ができます。
心拍数の計測には、様々な方法があります。最も一般的な方法は、脈拍を手で感じることです。ただし、手で脈を触れて時計を見ながら脈拍数を数えるという事は、習得が難しい場合があります。
実際、病院内で指導しても多くの患者さんには難しそうでした。
昨今、スマートフォンアプリやウェアラブルデバイスを使った心拍数の測定が発展しており、精度が高い事が示されています。
スマートウォッチの心拍数の精度の研究
さて、心臓病の方にとって重要は心拍数を自動で測ってくれる、すばらしい道具であるスマートウォッチですが、そのすべて信頼できるわけではありません。
実は、心拍数計測の精度はピンキリです。
これまで、スマートウォッチの心拍数測定の精度についてさまざまな研究がされていますが、2020年に158の論文の内容の総説が発表されています。要するに総まとめです。(JMIR Mhealth Uhealth 2020;8(9):e18694)
まず、研究の数ですが、2017年がピークで少しずつ減少しており、ある程度の知見はできった印象を受けます。
スマートウォッチ毎の安静時の心拍数計測の精度を示したのが以下の図です。
X軸にそれぞれのメーカーの名前が並んでおり、Y軸は平均パーセント誤差(MPE)の値で、心電図等のゴールドスタンダードな方法で測った心拍数とスマートウォッチで測った心拍数がどれぐらいずれがあったかという事を示しています。0%だとずれがなかった事になり、プラスでもマイナスでも数値が大きくなればずれが大きくなった事になります。因みにマイナスになれば心拍数を過小評価しているという事です。
四角もタコ足小さい方が、結果の個人差が少ないという事です。
平均パーセント誤差+3%とー3%のところに点線が引いてありますが、平均パーセント誤差-3%~+3%の間が許容できる誤差とされているので、この点線の間に四角が入っているという事は、そのスマートウォッチの心拍数計測の精度は高いと言えそうです。
そうやって見ると、一番左の緑で示されているApple watchだけ四角が点線の中に入っていますね。
安静時のスマートウォッチの心拍数計測の精度について(ブランド毎)JMIR Mhealth Uhealth 2020;8(9):e18694より転用
日常生活におけるスマートウォッチの心拍数計測の精度については、Fitbit Charge HRを用いた研究が3つ行われており、誤差は許容範囲であったとされています。
日常生活中で許容される誤差として平均パーセント誤差-10%~+10%の間という基準が使われていました。
それでは、運動しているときの心拍数の計測の精度はどうでしょうか?実際に運動する事で心不全の兆候が強く出ることがありますし、運動強度の調節のためにも、運動しているときこそ心拍数は正確に知りたいですよね。
そこで、2017年に発表され2023年現在までに300弱の論文から引用されている有名な論文を紹介します。(Med Sci Sports Exerc. 2017 Aug;49(8):1697-1703)
この研究では50人の健康な被験者にトレッドミル、エリプティカル・トレーナー、自転車こぎを含む18分の運動を行わせ、スマートウォッチで計測された心拍数と心電図で計測された心拍数を比較するという研究です。
結果を抜粋して以下の表にまとめます。
運動の種類 | スマートウォッチの種類 | 絶対平均パーセント誤差 |
トレッドミル | Scosche Rhythm+ | 5.9 |
Apple watch | 4.9 | |
Fitbit | 10.4 | |
Germin | 6.1 | |
TomTom | 6.2 | |
自転車こぎ | Scosche Rhythm+ | 4.8 |
Apple watch | 4.1 | |
Fitbit | 15.9 | |
Germin | 4.6 | |
TomTom | 5.9 | |
エリプティカル・トレーナー (腕付き) | Scosche Rhythm+ | 12.4 |
Apple watch | 6.5 | |
Fitbit | 11.7 | |
Germin | 13.7 | |
TomTom | 6.7 |
分かりやすいように、絶対平均パーセント誤差のみを抜粋しました。
絶対平均パーセント誤差とは簡略的に説明すると前述の平均パーセント誤差の+と-を外した値です。よって、絶対平均パーセント誤差が小さい方が誤差が小さいという事になります。
全体的には自転車こぎの運動が誤差が少ない印象です。
いずれの運動においてもApple watchは誤差が少なそうですね。
他にはTomTomもいずれの運動でも絶対平均パーセント誤差が10以下で成績がよさそうですね。
私はこれらの研究からApple watchが心拍数計測の信頼度が高いと判断して、Apple watchを使っています。
Apple watchが他のスマートウォッチよりも心拍数計測の精度が高い事についての考察
これまで、見てきたように、いくつものスマートウォッチで光学式心拍センサーが搭載され脈拍の計測が可能ですが、Apple watchが他のデバイスよりも心拍数計測の精度が優れています。
スマートウォッチでの脈拍計測の弱点は、モーションアーチファクトの影響を受ける事です。(Med Sci Sports Exerc. 2017 Aug;49(8):1697-1703)
つまり、スマートウォッチを付けている腕の動きが大きくなると、ずれなどが生じて、脈拍の計測の正確性を損なってしまいます。
実際、Apple watch以外のスマートウォッチでも安静時の心拍数は心電図の心拍数とのずれは少ないです。要は、動いても腕の動きに耐えて正確に脈拍計測できるかどうかが問題です。
そこで、Med Sci Sports Exerc. 2017 Aug;49(8):1697-1703の研究で使用された、Apple watch, Fitbit Blaze(Fitbit),Garmin Forerunner 235 (Garmin),のセンサーがどのようについているかについて確認してみました。
Fitbit Blazeにはセンサーは中央に1つのみついています(四角いものです)
Garmin Forerunner 235にもセンサーは1つです(中央の四角いものです)
一方、Apple watchには上下2つのセンサーがついています。(Photodiode sensorsと示されているものです)
加えて、最近のapple watchにはさらに多くのセンサーが付いています。
私が使っているApple watch SEなどでは以下のように8方向にセンサーが配置されています。
最近の機種では以下のように、4方向にセンサーが配置されています。
以上のことから、Apple watchが他のデバイスよりも心拍数計測の精度が優れている要因の1つとして、センサーの数が多いので、腕の動きに耐えて脈拍の計測を続けられるからという事も考えられるかもしれません。
なるほど、確かに精度がまちまちなので、精度が高いものがいいと思います。
でも、高いでしょ?。。
確かに、品質がいいものは高いですよね。
それでは、品質がある程度いい型落ちはいかがですか?
Apple watchは心拍数計測の精度が高い。どのシリーズから十分な精度が期待できる?
私のお勧めはApple watchです。
でもApple watchも色々なシリーズがあり、どんどん機能がよくなっていっていますので、昔のバージョンと今のバージョンでは心拍数計測の精度は異なります。
では、どのシリーズから十分な精度が期待できるでしょうか?
Apple Watch の光学式心拍センサーは、光電式容積脈波記録法 (フォトプレチスモグラフィ) と呼ばれる方法を用いて心拍数を測定します。(Apple)
Apple Watch のシリーズと光学式心拍センサーの世代の一覧をまとめます。
Apple watchのシリーズ | 発売日 | 光学式心拍センサー |
シリーズ 8 | 2022年9月16日 | 第3世代 |
Ultra | 2022年9月23日 | 第3世代 |
SE2 | 2022年9月16日 | 第2世代 (ここは第2世代です) |
シリーズ 7 | 2021年10月15日 | 第3世代 |
シリーズ 6 | 2020年9月18日 | 第3世代 |
SE | 2020年9月18日 | 第2世代 |
シリーズ 5 | 2019年9月20日 | 第2世代 |
シリーズ 4 | 2018年9月21日 | 第1世代 |
シリーズ 3 | 2017年9月22日 | 第1世代 |
シリーズ 2 | 2016年9月16日 | 第1世代 |
シリーズ 1 | 2016年9月16日 | 第1世代 |
初代 | 2015年4月24日 | 第1世代 |
世代ごとにどれほど精度が上昇しているかまでは分かりませんので、ここからは過去の研究結果と私がApple watchを使っている経験からの私見です。
まず、今回紹介したような研究は発表年から考察するに第1世代の光学式心拍センサーが搭載されたApple watchでの検証も大多数含まれており、その条件でApple watchの成績がよかったとのことですので、第1世代の光学式心拍センサーでもある程度の精度が期待できると考えます。
また、私自身はApple watch SE (第2世代の光学式心拍センサーを搭載)を使用しています。
Apple watch SEを付けながら自分で外を走ったり、ジムでトレドミルや自電車こぎの運動をしたりしながら検脈や心電図で脈拍を測り、Apple watch SEの心拍数の精度を確認しましたが、非常に正確であるという印象を受けています。
よって、個人的には第2世代の光学式心拍センサーで十分という感覚があります。
Apple の説明によると、第2世代の光学式心拍センサーは 第1世代の光学式心拍センサーよりも心拍数の測定精度が向上したということですので、私の経験からは第2世代の光学式心拍センサー以降であれば間違いないと思います。
つまり、Apple watch シリーズ5以降、SE,Ultraですね。
我々は、この心拍数計測で高い精度を有するApple watchに限って使用できる心臓病のためのアプリを開発中です。
脈拍をもとに心臓へ負担がかかり過ぎないように休むべき時をお知らせをする事ができます。
脈拍と疲労度をもとに、適度な運動強度を定めるお手伝いをして好ましい運動習慣へ導きます。
日々の歩数や脈拍を記録しますので、健康管理にもお役立て頂く事もできます。
プロフェッショナルの知識を手首に携えて、手軽な脈拍管理を可能にすることで、安心で健康なイキイキした日々をおれるようにお手伝いできれば幸いです。
循環器専門医が作るApple Watchを用いた運動支援アプリ
現在、循環器専門医がApple watch専用の運動支援アプリを開発中です。
循環器専門医の脈拍に基づいた運動強度の設定のノウハウと、Apple watchの精度の高い脈拍計測を掛け合わせた世界で初めてのアプリです。
「せっかく運動するなら、無駄にならないいい運動にしたい」「そろそろ真面目に運動しないと」と思っている方にお勧めです。
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本日の内容はyoutubeでも解説していますので、参考にしてください。
まとめ
- スマートウォッチの心拍数計測の精度は機種によってまちまちである。
- さまざまな研究からは安静時も運動時もApple watchの精度が高そうです。
- 医師であり生理学研究の経験のある私は、第2世代の光学式心拍センサーを搭載しているApple watch SEを使用しています。検証した結果、心拍数計測の精度に大変満足しています。
- 第2世代の光学式心拍センサーが搭載されているApple watch シリーズ5以降、SE,Ultraが私のおすすめです。
キャッチ画像:著作者:Freepik