1. はじめに:胸痛の重要性と緊急性
今日は、命の危険がある胸痛の特徴についてお話しします。
胸痛といっても、その原因は単なる筋肉の疲労の事もあり、全部が全部命の危険があるわけではないです。
一方、生命を脅かす重大な病気が隠れている可能性があり、いち早く治療を始めないとそのまま命を落とすこともあります。
胸部には、心臓や大動脈・肺など生命を維持するのに大変重要な臓器が存在しており、それらの臓器の異常が胸痛として症状に表れている場合があるんです。
そんな危険な胸痛が起きた時に、あなたはすぐに病院に行くという判断ができますか?
救急車を呼んでは近所の方の注目を集めてしまうと言って、できるだけ我慢してみますか?
そんな事を気にして取り返しがつかない事になるかもしれません。
そこで、命を奪う胸痛の魔の手からあなたの身を守ってほしいので、今日は怖い胸痛の特徴について解説をします。
ぜひ、今日の内容を心にとめておき、ご自身や身近な方が胸痛で苦しんでいる時には適切な対応をして下さい。
もし私が救急外来で勤務していて、患者さんが今日私がお示しする胸痛の特徴で救急車で受診されたなら、私ならナイス判断だと思いますよ。
2. 胸痛を引き起こす可能性のある重篤な疾患とその致死率
様々な病気が胸痛を引き起こしますが、本日は特に命の危険がある病気を3つ紹介します。それは、心筋梗塞、肺塞栓症、大動脈解離です。これらの病気は致死率が非常に高く、迅速な医療対応が必要となります。
心筋梗塞
心筋梗塞は心臓の血管が詰まり、心筋への血液供給が途絶えてしまい、心筋が壊死してしまう病気です。致死率は40%とされています(日本循環器学会)。発症からの時間が経過すればするほど、それだけ心筋も死んで行きます(JAMA 2005;293:979-986)。”time is muscle(時は心筋なり)“という言葉もできるほど、できるだけ早い治療介入が求められます(国立循環器病研究センター_STEMI/NSTEMIの治療法)。
胸の中心部にこぶし大の締めつけられるような強く痛みを感じ、その痛みが左腕や下顎にまで広がることが特徴です。
肺塞栓症
肺塞栓症とは、血液が固まった塊(血栓)が静脈から心臓に飛んできて、肺の血管を塞いでしまう状態を指します。飛行機の中で起こるエコノミー症候群といわれる病気はこの病気のことです。多くの場合、血栓が発生しやすい下肢の深部静脈で血栓ができ、何かの拍子に血流に乗って肺へと運ばれてしまいます。
肺の血管が詰まるとその先に十分な血液が行かなくなります。
そうすると、肺で十分な酸素と二酸化炭素の交換ができなくなります。加えて、血液の循環も妨げる事になります。結果、全身に十分な酸素を送りだせなくなり、死に至る危険もあります。
未治療の場合は致死率は30%(Circulation 2008;117:1711–1716)で。死亡してしまう方の75%は発症後1時間以内であり、早急な対応が求められます(J Nucl Med 1969; 10: 28-33)
肺塞栓症では、胸痛の他に息切れや急な咳が現れることもあります。
大動脈解離
大動脈解離とは、体を通る主要な血管である大動脈の内壁が裂け、血液が壁の間に入り込む病状を指します。その壁が裂けると血流が乱れ、最悪の場合、大動脈自体が破れる危険性があります。もし破れてしまうと、大きな動脈からすさまじい量の出血が生じます。
私は一度救急外来に胸痛できた患者さんの診察中に、突然胸が盛り上がってくる方に出会った事があります。
その方は、残念ながらなくなってしまいましたが、大動脈の破裂が起こって、胸の中で胸を押し上げるほど出血をしていたんです。
動脈解離の致死率は非常に高く、病院にたどり着いた時にはすでに救命が難しい状態だった方は30%程度とされています。(JACC Adv. 2023 Oct, 2 (8) 100623)
大動脈解離では、胸や背中に強い痛みが生じます。裂けるような痛みで、背中から腰に痛みが移動する事があります。
3. 命の危険がある胸痛の特徴
これらの疾患の共通する警告サインとして、以下の3つの特徴を挙げます:
- 突然の強い痛み: これらの病気基本的には突然起こります。5分前までいつも通りだったが突然もだえるという事が起こります。そして典型的には痛みの程度も非常に強いです。この痛みは、時には「今までに感じたことのないほどの強さ」と表現されます。
- 放散痛と随伴症状の存在: 胸痛がある特定の部位に限定されず、肩や腕、下顎、背中などに広がる場合(放散痛)、それは心臓由来の痛みの可能性が高いです。また、胸痛と共に、息切れ、吐き気、発汗、めまい、意識障害など他の症状が現れる場合も、重篤な疾患の可能性が考えられます。
- 痛みの持続時間: これらの命の関わるような病気は、基本的には痛みは持続します。数秒でなくなるというものではありません。逆に、なんか数日ずっと続いているというようなぬるい痛みでもありません。基本的には激烈で数分や数時間のうちに体に大きなダメージを与え、症状を引き起こします。
※上記の事はあくまで一般論です。痛みの程度・随伴症状・持続時間は病状や個々の体質により異なります。例えば、女性や糖尿病の方は心筋梗塞になっても胸痛ができにくいです。
ですので、この3つの症状がすべてなければ、「心筋梗塞、肺塞栓症、大動脈解離じゃない」というわけではありません。
ただし、これら3つの症状がすべて当てはまるなら、すぐに救急車で病院に行く方がいいでしょう。
4. まとめ
- 命の危険がある胸痛の代表は、心筋梗塞、肺塞栓症、大動脈解離
- 命の危険がある胸痛の特徴①突然の強い痛み
- 命の危険がある胸痛の特徴②放散痛と随伴症状の存在
- 命の危険がある胸痛の特徴③痛みの持続時間
本日の内容を参考に、胸痛が現れた場合は、症状を可能な限り詳細に医療スタッフに伝え、早期に適切な医療の手を受けて下さい。それが、命を守るための最良の手段となります。
それでは、今日も健康であなたらしい1日をお過ごしください!