ずぼら運動学

6分間歩行テスト基準値・カットオフ値。自動計算フォームあり【医師作成】

6分間歩行テストとは?

6分間歩行テストは、患者が6分間でどれだけの距離を歩けるかを測定する評価法です。

このテストは、心肺機能や運動耐容性の評価に広く用いられています。いわゆる体力を数値化する事ができます。

6分間という限られた時間の中で、長い距離を歩ける方が一般的には体力があると判断できます。

高齢者の方々にとっては、日常生活の動作や健康状態を評価する上で非常に参考になるテストとなっています。

有用なのに病院外でもできる優れもの!

手軽に行える事と寿命や病気の展望を推測する時に6分間歩行距離が有効であるというさまざまなデータがある事から、病院の中でもよく使われるテストです。

例えば、循環器専門医の私は、心臓リハビリテーションの効果判定や、肺高血圧症の患者さんへの治療の効果判定などでよく用います。手術前のリスク評価としても使われる事もあります。

医学的に確立したものですが、特殊な機器を必要とせず、ストップウォッチと歩行距離の計測する環境さえあれば病院外でもできる優れた検査です。

6分間歩行テストの評価法

さて、それでは、6分間歩行テストをどのように評価するのかについて解説をします。

6分間歩行中の脈拍は疲労度やSpO2など総合的に判断しますが、なんといっても一番重要なのは、6分間歩行距離です。

つまり、6分間でどれほどの距離を歩くことができたかという事です。

最初に、6分間歩行距離が低すぎるといういわゆるカットオフ値について紹介します。

フレイルの基準になるカットオフ値:300m

昨今、フレイルという言葉が一般化してきましたが、運動機能の低下を示す状態として、高齢者の健康問題として注目されています。

日本版フレイル基準の1つとして”通常歩行速度<1.0m/秒”があります。

通常という表現があいまいであり、判断しずらいところではありますが、6分間で300m歩けないと歩行速度<1.0m/秒となるのため要注意でしょう。

(参考)日本版フレイル基準

項目評価基準
体重減少6か月で、2kg以上の(意図しない)体重減少
筋力低下握力:男性<28kg、女性<18kg
疲労感(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする
歩行速度通常歩行速度<1.0m/秒
身体活動1.軽い運動・体操をしていますか?
2.定期的な運動・スポーツをしていますか?
上記の2つのいずれも「週に1回もしていない」と回答
※ 5つの評価基準のうち、3項目以上に該当するものをフレイル(Frail)、1項目または2項目に該当するものをプレフレイル(Prefrail)、いずれも該当しないものを健常(Robust)とする。

移動能力が低下しているサインとされる値:400m

サルコペニアは加齢などにより筋肉量が減少してく現象のことです。フレイルとの違いが紛らわしいですが、サルコペニアは筋肉の減少に焦点を当てた概念です。

その中で、Sarcopenia with limited mobility(移動能力低下を伴うサルコペニア)という概念があります。(いよいよフレイルとの違いがややこしいですね・・それは一旦置いておきましょう)(J Am Med Dir Assoc. 2011;12:403-9

この概念の中で移動能力低下を以下のように定義されています。

歩行速度<1.0m/秒 もしくは 6分間歩行距離<400m

病気の予後不良の指標となるカットオフ値:300-440m

何mを境に病気の程度が急に変わるというわけではなく、基本的には6分間歩行距離が短ければ短いほど状態が不良となりますが、以下のような報告があるので参考にして下さい。

心不全患者では 300 m以下で生命予後不良とする報告が多い(簡便に運動耐容能を評価する
COPD(慢性閉塞性肺疾患)患者では、レビュー論文があり、6分間歩行距離のカットオフ値を 317 mとしている.317 mを下回るようになると,様々な治療介入を再検討が考慮される(European Respiratory Journal 2014 44: 1447-1478COPD患者の6分間歩行試験と漸増シャトルウォーキングテスト

肺高血圧症患者(特発性肺動脈性肺高血圧症、遺伝性肺動脈性肺高血圧症)の重症度分類においても6分間歩行距離は用いられており、440m以下は中リスク群、165m未満は高リスク群とされている。

日本循環器学会 肺高血圧症治療ガイドライン(2017 年改訂版)より引用

日本人の6分間歩行テストの年齢・性別ごとの基準値

カットオフ値にひかかっていない事が分かった後には、自分の体力が同年代の人と比べていいのか、悪いのかというのが気になるのではないでしょうか。

そんな方の為に、参考になるのは文部科学省が実施する「体力・運動能力調査」の結果です。

文部科学省は国民の体力・運動能力の現状を明らかにし、体育・スポーツ活動の指導と、行政上の基礎資料として広く活用するために、毎年、「体力・運動能力調査」を実施しています。65歳~79歳を対象に6分間歩行テストが実施されています。

令和4年度の体力・運動能力調査の6分間歩行テストの結果は以下の通りです。

年齢(歳)男性の平均6分間歩行距離(m)女性の平均6分間歩行距離(m)
65-69623.64588.08
70-75605.03568.80
75-79576.27541.41

それぞれの年代の男女で630-850人の方に検査を実施して出した平均値なので、かなり信ぴょう性は高いかと思います。

テストの対象としては”65歳から79歳までの男女”としか規定はありませんが、上体おこし、長座体前屈、開眼片足立ちなどのテスト項目がある事から、少なくとも自分で生活は可能な元気な方のデータであると考えられます

体格を考慮した基準値を自動計算フォーム

さらに、詳細に評価を行いたいという方は以下のフォームをご利用ください。

歩く速さというのは体格に関係するという事は想像できると思います。例えば背が高い人は歩幅が大きく、背が低い人よりも歩くのは早いですよね。

その体格も考慮にいれた推定式を海外の研究で発表されています(Am J Respir Crit Care Med 158: 1384-1387, 1998)。

40-80歳の健康な男性117人、女性183人を対象にした6分間歩行を実施した研究です。

推定式は以下の通りです。

<男性の場合>

推定6分間歩行距離 = (7.57 x 身長(cm)) – (1.76 x 体重(kg)) – (5.02 x 年齢) – 309 m

<女性の場合>

推定6分間歩行距離 =(2.11 x 身長(cm)) – ( 2.29 x 体重(kg)) – (5.78 x 年齢) + 667 m

こちらの式をフォームにしたものが以下のものですのでご活用ください。

6分間歩行距離とあなたの体格からあなたの体力年齢を計算できるフォームも作りました。

あなたの心肺機能の現在地を把握しませんか?

日本でも研究が進んでいるようですが、まだ推定式の発表までは至っていないようです(日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 6分間歩行について)。

6分間歩行距離はどれぐらい上がればいいのか?:45-70m

6分間歩行距離と死亡率の減少との関連が示されています(J Am Coll Cardiol. 2006; 48:99-105)

ただし、1回目の計測から2回目の計測の間に学習効果で6分間歩行距離が31m増加する事が示されていますし(Int J Cardiol. 2017 :240:285-290)、ある程度増加しないと治療効果があったとは判断できない事に注意が必要です。

そこで優位な変化量を過去の文献を参考に以下に列挙します。

慢性心不全患者では6分間歩行距離の45mの改善は、運動耐容能と健康に関する生活の質の改善と関係がある(8つのランダム化比較試験のレビュー

運動能力の改善を得るためには6分間歩行距離の50mの改善が必要(J Am Med Dir Assoc. 2011;12:403-9

COPD患者では70m以上の改善が有意な治療効果と示唆される論文があります(Am J Respir Crit Care Med 1997;155:1278–1282、ATS Statement: Guidelines for the Six-Minute Walk Test

まとめ

6分間歩行テストは、高齢者の健康状態や疾患の評価に非常に有用なツールです。正確な評価のためには、年齢や性別、そして国内外のデータを適切に利用することが重要です。このテストを定期的に行うことで、自身の健康状態のチェックや、必要なケアや治療の適切なタイミングを逃さないようにすることができます。

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