私は循環器内科医で心臓病の患者さんに禁煙を指導していますが、何を隠そう私も元喫煙者です。
禁煙には2回失敗し、3回目でやっと成功しました。
失敗した時には、1か月、3か月、6か月あたりでタバコを吸いたい衝動がやってきて、お酒の場などタバコをいつも吸っていたシチュエーションをきっかけにまた吸うようになってしまいました。
でも、やめて時間がたつと全く吸いたいとは思いません。体が求めなくなります。むしろ、今はタバコの煙が嫌いで、タバコが吸えるようなレストランや喫茶店には行きません。
タバコを吸いたくなるのは、体が中毒状態になっているからです。一定期間耐えれば、あとはこっちのものです!
本日は、健康のためにタバコを止めたい方の力になるため記事を書きました。
喫煙が心臓に与える影響
タバコの煙には、約4000種類以上の化学物質が含まれ、そのうち有害とわかっているものだけで200種類以上もあります。ニコチン・一酸化炭素が循環器疾患に大きな影響があるとされています。
それらの化学物質は、血管を狭め、血圧を上昇させ、動脈硬化を促進します。これにより、心臓に負担がかかり、心筋梗塞などの心臓の病気を助長します。
心臓への主な影響
- 血管の損傷と動脈硬化:タバコの煙に含まれる化学物質は、血管の内壁を損傷し、動脈硬化を引き起こします。
- 高血圧:ニコチンは血管を収縮させ、心臓の仕事を増やし、結果として血圧が上昇します。
- 心拍数の増加:ニコチンは心拍数を一時的に上昇させ、心臓に余分な負担をかけます。
心臓病ではない40-59歳の方にタバコの喫煙状況をアンケートをとり、その後11年間も経過を見た研究があります。アンケート調査をした人は全部で4万人と非常に大規模な研究です。この研究では、タバコを吸っていない人に比べて、タバコを吸っている人は、将来的に心筋梗塞になる確率が男性では3.6倍、女性では2.9倍も高かったことが示されています。
軽いタバコにすればいいのか?
タバコが軽い・重いというのはタールの量の事です。
タールの煙のガス成分を除いた粒子上の成分の総体がタールと呼ばれるものです。
タバコを吸う方の中で、タバコをやめる代わりに、健康の軽いタバコに変える方は多いですが、実はあまり意味があると言えません。
医学的には、軽いタバコに変えても、体への悪影響は変わらないというのが通説です。
例えば、タール値と肺がんの関係を調べた研究では、タール値が0-7mgの低タール銘柄と8-14mgの中タール、15-21mgの高タールは同じくらい高い肺がん死亡のリスクがあるという結果が発表されています(BMJ. 2004; 328: 72)
心筋梗塞についても同様です。60-79歳の高齢群において、心筋梗塞の発症リスクはタール値が10mg以下の銘柄を吸っていると2.35倍高くなり、タール値が10mg以上の銘柄を吸っていると2.37倍高くなります。タールの量は低くても高くてもリスクは変わりません。
30-59歳の若年群においては、タールの量が少ないと心筋梗塞になるリスクも低くなっています。ただし、タール量10mg以上の銘柄を吸うと心筋梗塞に3.95倍なりやすくなるところが、タール量を10mg以下に抑えることで、3.39倍になりますという話です。
3.39倍の心筋梗塞のリスクを抱えた状態が、健康に心がけていると言えますか?
電子タバコにすればいいのか?
では電子タバコはどうでしょうか?
残念ながら、電子タバコもタバコと同様十分に体に悪いことが分かっています。
すでに、いくつかの研究で、電子タバコを吸っていることと心筋梗塞の発症のリスクの関係について科学的に示されています(J Am Heart Assoc. 2019;8:e012317. Am J Prev Med. 2018 Oct; 55(4): 455–461.)
電子タバコができてまだ10年ほどしかたっていません。
長期的な影響は不明なことばかりです。
ですので、タバコと比べて、電子タバコが健康被害が少ないのかどうかについても、まだ判定しずらいです。
ただし、電子タバコでも健康被害があることが分かっている以上、「タバコから電子タバコに変えればいいですよ」とは医師としては言えません。
禁煙外来は保険の適応です
2006年より禁煙治療に健康保険が適用されるようになりました。
すなわち、治療の7割以上を国が負担をしてくれます。
今まで国に税金を納めてきたんです、保険診療はうまく活用してください!
禁煙外来の内容と成功率
12週間に5回の禁煙治療が行われます。最近では2,3,4回目はオンライン診療も可能ですし、禁煙治療用アプリも使用可能になっているので、より使いやすいものになっています。(厚労省)
禁煙治療で、5回の診察すべてを受けた人は、治療終了時で約75%が禁煙に成功しているようで、かなり効果がある印象を受けています(たばことがん、国立がん研究センター)
禁煙外来を受けられる条件
以下の要件をすべて満たした方のみ、12週間に5回の禁煙治療に健康保険が適用されます。
- ニコチン依存症に係るスクリーニングテスト(TDS)で5点以上、ニコチン依存症と診断された方
- 35歳以上の場合、ブリンクマン指数(=1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上の方
- 直ちに禁煙することを希望されている方
- 「禁煙治療のための標準手順書」に則った禁煙治療について説明を受け、当該治療を受けることを文書により同意された方
TDSニコチン依存度テストについてはこちらから確認することができます。
①、③、④については主観の回答になるので、多くの方が「該当する」と思われます。
問題は②かもしれません。
1日10本吸う人は20年間の喫煙歴がある必要がありますし
1日20本吸う人でも10年間の喫煙歴が必要ですね。
禁煙外来の見つけ方
2023年12月の時点で約17,000の医療機関で禁煙治療の保険診療が実施されています。
2021年から変わりないので、これ以上は増えていないのかもしれません。
全国禁煙外来・禁煙クリニック一覧を日本禁煙学会が作成してネットに公開してくれていますので、ご自宅の近くに禁煙治療ができる医療機関がないか確認してみて下さい。(リンクは張れなかったので検索してみて下さい)
一部抜粋すると、以下のように住所や地図も載っていますので、家に近いかどうか判断しやすいと思います。
まとめ
- タバコは心臓に悪く、心臓病を引き起こします
- 軽いタバコに変える→だめです、電子タバコに変える→だめです。禁煙しましょう!
- 禁煙治療は保険で受けられるようになり、成功率75%です。
- 一度近くの禁煙外来で相談されてはいかがでしょうか?