心臓病をはじめとする、さまざまな病気に対して運動が有効であることはよく知られており、WHOでは週150分以上の中等度強度以上の運動を推奨しています。
ただ、仕事をしていたり、まとまった時間を取れない人にとって週150分の時間を確保することは難しいと感じられることもあると思います。
もちろん長い時間、しっかり運動をすることが望ましいですが、それが難しい場合でも短時間でより高い効果を得られるほうがいいですよね?
ヒトの体には概日リズム(サーカディアンリズムなどとも呼ばれます)、という、いわゆる「体内時計」が備わっています。1日の中でも病気が起きやすい時間帯や、ホルモンの分泌量が増えたり減ったりする時間帯などが存在します。
この時間帯による違いをうまく利用すれば、同じ時間の運動であっても得られる効果が違ってきます。
そこで、運動の効果を高める時間帯について、今回は糖尿病についてまとめています。
糖尿病と運動の有効性について
糖尿病は心臓病の危険因子のひとつであり、令和元年の国民健康・栄養調査によると、糖尿病が強く疑われる人(20歳以上)は、男性19.7%、女性10.8%と非常に多くの人がかかっている病気です。
糖尿病についてはこちらにもまとめています。
多くの糖尿病というのは血液の中の糖分である血糖値が高い病気です(血液の中の糖分が多ければ尿にも糖分がでてきます)
血糖は本来から筋肉や細胞のエネルギーになる必要なものです。筋肉や細胞に糖を取り込む時に作用するホルモンがインスリンです。
糖尿病の人にとって、このインスリンの異常が病気の原因になりますし、治療にもなるので大変重要です。
インスリン自体が生まれつき少ない人(1型糖尿病)もいますが、多くの場合はインスリンの効きが悪くなる人が多いです(2型糖尿病)。糖分を取り過ぎて、血糖が高い状態が続くと、細胞や筋肉でのインスリンへの反応が悪くなるんです。これをインスリン抵抗性と言います。
せっかくインスリンを出しても、それがあまり効かないというのは勿体ないですよね。
頑張って作った商品を世に出しても売れないようなものです。
インスリン抵抗性は運動不足によって悪くなりますし、運動することにより改善されるんです。
運動は糖尿病に対する立派な治療になるのです。
インスリン抵抗性や糖尿病への運動の効果についてはこちらのサイトでもよくまとまっていますので、ご参照下さい。
https://dm-net.co.jp/fitness/staff/001/12.php
それでは、血糖を下げるために運動する際に、効果が出やすい時間帯は?
まずは血糖値の変動が1日でどう変化するかについて見ていきましょう。
1日の中での血糖値の変動
糖尿病の方にとって、インスリンは非常に重要なホルモンです。このインスリンの分泌量は1日の中でも異なっており、食後に多く、また午前の方が午後や夕方よりも多くなることがわかっています。(Carrol,1973)
また、食事を摂取した後は、自然と代謝が上がることも知られています。
食事をとった後、少し体が暖かくなるように感じることはありませんか? これは、食事をとった後に体内に吸収された栄養素を分解するときに、一部が体熱となって放出されるからです。これを食事誘発性熱産生(DIT:Diet Induced Thermogenesis)と言います。
この食事誘発性熱産生にも、1日の中で変動があることがわかっており、朝が最も高く、夕方や夜にかけて低下するとされています(Romon,1993)。
このように1日の中でも、インスリンの分泌量や食事誘発性熱産生の程度に変化があり、夕方のほうが食後の血糖値は高くなりやすい、と言えます。
血糖値の1日の中での変動が大きい人ほど動脈硬化が進行している、という報告もあります(Wakasugi,2021)。適切な血糖値のコントロールを行うためには運動が欠かせません。
ここからはどの時間帯の運動がより効果的か、まとめています。
食後の運動が有効ですが注意も必要
糖尿病の方にはよく、食後に運動をするように、という指導が行われます。
インスリンは食後に多く分泌され、筋肉や肝臓の中に糖を取り込む作用を持っています。そして運動を行うことで、筋肉の中に取り込まれた糖を効率よく消費することができ、血糖値を下げる効果が期待できます。
ただし、食事直後に運動を行うと、食べ物を消化するために消化器系に集中するはずの血液が筋肉の方へ移動してしまい、消化が十分に行われなくなってしまう可能性があります。
ですので、食後30分〜1時間後に運動を行うことが望ましいです。
また、まとまった運動時間を確保できなくても、数分間の低強度の運動を行うことで血糖値を下げる効果があることも報告されています。(Buffey,2022)
座りっぱなしも体にとっては悪影響ですので、こまめに体を動かすようにしましょう。
朝と夕方、どっちが効果的?
2型糖尿病の方を対象に、朝と夕方に運動を実施した場合の効果の違いについて、いくつかの報告があります。
Savikjらは、平均60歳の2型糖尿病の男性11名を対象に、2週間のインターバルトレーニングを行った結果を報告しています。その結果、朝の運動に比べて、夕方の運動のほうが血糖値のコントロールが良好となった、と報告しています。
また、Kimらは12名の健康な男性を対象に、運動の時間帯と血糖値の変化に関する検討を行っています。運動は1回あたり60分、週3回、中等度の強度でのウォーキング(対象者の最大体力の60%の強度)を実施しています。その結果、夕方の運動後の方が1日の血糖値の変動が緩やかになった、と報告しています。
以上をまとめると、朝より夕方のほうが血糖値を下げるには効果が高い可能性が考えられます。
ただし、いずれの文献も対象者が限られているため、他の併存疾患があったり、年齢の違い、生活習慣の違いなど、ほかのさまざまな要因の影響を受ける可能性が十分考えられます。
また、朝や昼の運動に効果がないというわけでは決してありません。運動時間を確保することは非常に重要ですので、それぞれの生活に合わせた運動メニューを考えることが非常に重要です。
さらに効果が出やすい運動をするなら次は運動強度にも気を付けるべきです。
弱すぎる運動は効果が低いです。せっかく運動の時間をとるなら、ある程度脈拍が上がるような運動をすると効果が出やすいです。
あなたに合った運動強度の設定を助けてくれるアプリを我々は開発中です。Apple watch限定のアプリです。
ご興味がある方は、Line登録して頂けると、最新情報をお届けいたします。
まとめ
運動の時間帯を工夫することで、より効果を高めることができる可能性があります。
糖尿病の方にとっては、朝より夕方の運動のほうが血糖値を下げる効果を得やすくなる可能性があります。