ずぼら運動学

運動の効果が出やすい時間帯は? 〜減量編〜

様々な病気に対して運動が有効であることは言うまでもありません。

ただし、なかなか時間を取れない人にとって、WHOが推奨する“中等度の強度で週150分”の運動を実践することは難しいと感じられることもあると思います。

ヒトの体に備わっている概日リズム、いわゆる「体内時計」を利用し、より短時間で効果を高められるといいですよね。

前回は糖尿病についてこちらにまとめました。

今回は“減量”編と題し、食欲や運動の時間帯による効果がどう変わるかについてまとめました。

体重増加と心臓病の関係

日本肥満学会によると、肥満とは「脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、体格指数(BMI=体重〔kg〕/身長〔m〕)≧25のもの」と定義されています。

厚生労働省が実施している国民健康・栄養調査の令和4年度の報告によると、男性で31.7%、女性は21.0%の方が肥満に該当するとされています(下グラフ)。

Yamadaらの報告によると、男女ともに肥満の方ほど糖尿病、高血圧症、脂質異常症といった、いわゆる生活習慣病になりやすいこともわかっています。下の表は標準体重の人を基準として、糖尿病・高血圧・脂質異常症になる危険性をまとめたものになります。数字が大きければ大きいほど、危険性が高いことを表しています。

体重の変化と心臓病の関係についてもいくつか報告があります。

Cuiらは40〜79歳の日本人、約6万人のデータをもとに、20歳の時の体重からどれだけ変化したか、と心疾患の発生率について調査した結果を報告しています。その結果、体重が大きく変化しなかった人(±5.0kg以内)と比べ、10kg以上増えた人は、心筋梗塞になる可能性が1.67倍にも増えることがわかりました。

また、Frederiksenらは、5年間でのBMIの変化と心房細動の発生率について報告しており、BMIが2.5kg/m2増えると、心房細動の発生率が1.24倍高くなるとしています。

このように体重の増加は心臓病の発生率と関係があることがわかっており、心臓リハビリテーションのガイドラインでも適切な体重管理の実施は強く推奨されています。

肥満についてはこちらにもまとめていますので、ぜひ参考にしてください。

食欲の変化

食欲は消化管から分泌されるホルモンの影響を受け、1日の中でも変動があることがわかっています。朝は食欲を抑制するホルモン(GLP-1)の分泌量が増え(Lindgrenら)、夕方は反対に食欲を亢進させるホルモン(活性型グレリン)が増加します(Qianら)。そのため、空腹感は朝に低くなり、夕方に高くなります。

実際に令和元年の国民健康栄養調査の結果でも、朝食を食べない人は全体の12.1%もいるのに対し、夕食を食べない、と言う人はたった1.0%しかいません。

Ruddick-Collinsらは、朝食をより多く食べるグループと、夕食をより多く食べるグループの間で、食欲がどのように変化するのかを調査しています。その結果、朝食をより多く食べるグループの方が、食欲を抑制することができた、と報告しています。

また、Jakubowiczらの報告によると、朝食をより多く食べている人の方が、夕食を多く食べている人と比べ、体重減少の効果が高く、血糖値や中性脂肪の値が低くなった、と報告しています。

これらの結果から、朝食をしっかり食べることで、体重減少の効果をより得られやすいことがわかります。

ちなみに食欲は季節によっても変動することも報告されています。Tanakaらは日本の成人女性の摂取エネルギー量を調査しています。その結果、夏に比べて冬の方が摂取エネルギー量は約400kcalも多くなるとしています。これは気温や日照時間などの環境的な要因だけでなく、身体活動量や感情の変化などの要因も影響を与えると考えられています。

運動を行う時間帯で効果は違う?

運動は減量するために欠かせない要素の一つです。

運動の時間帯と体重減少について、いくつか報告があるのですが、実は一致した見解が得られていません。

Willisらは肥満の方を対象に、午前に運動するグループと、午後に運動するグループで体重の変化に違いが出るのかを検討しています。週5日、10ヶ月間の中等度の強度の有酸素運動を継続した結果、午前に運動するグループの方がより多く体重が減少したと報告しています。

それに対し、Mancillaらは運動時間が代謝機能に与える研究を実施しています。12週間の運動をおこなった結果、午後に運動したグループの方が、より脂肪量の減少効果が得られたと報告しています。

また、Brookerらは有酸素運動を週250分、12週間継続した結果、午前に運動したグループと夕方に運動したグループで、減量効果は同等だったと報告しています。

まだ、体重を減らすために最適な運動の時間帯に関しては、十分な研究結果が得られていないため、今後更なる研究が行われることが期待されます。

まとめ

体重の増加は心臓病の危険性を高めるため、適切な体重を維持することが重要です。

食欲を抑えるためには朝にしっかりと食事を摂ることが望ましいです。

運動を行う時間帯については一致した見解は得られていませんが、減量のためには運動は欠かすことができない要素の一つです。

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