健康維持のために散歩をしています。
1日1万歩とか8000歩とか勧められているけど、私はもう80歳近いので、同じ目標の歩数を目指すと無理し過ぎちゃうんじゃないかって不安です。
マル
確かに、運動は適度にやる事が大切で、過度の運動は逆にケガを引き起こすなど、よくないです。
体力は人ぞれぞれですので、歩数の目標もみんな一緒というのはちょっと無理があるかもしれませんね。
今日は一日の歩数の目安を、高齢や心臓病などで体が弱くなった時にどのように考えるかについて考えたいと思います。
1日1万歩の由来
まずは、世間で言われている。一日の歩数の目安の根拠についてまとめます。
1日1万歩という事もよく目安として昔から耳にします。
元々は、万歩計が日本で作られたときに、マーケティングとして”1日1万歩”というフレーズが用いられたとされています。
ただし、研究結果の裏付けもあり、厚生労働省の健康日本21(2010年作成)という取り組みにおいては、”身体活動量と死亡率などとの関連をみた疫学的研究の結果からは、「1日1万歩」の歩数を確保することが理想と考えられる”とされています。
理想と考えた厚生労働省の理由は以下の通りです。
「海外の文献から週当たり2000kcal(1日当たり約300kcal)以上のエネルギー消費に相当する身体活動が推奨されている。歩行時のエネルギー消費量を求めるためのアメリカスポーツ医学協会が提示する式を用いて、体重60kgの者が、時速4km(分速70m)、歩幅70cm、で10分歩く(700m、1000歩)場合を計算すると、消費エネルギーは30kcalとなる。つまり1日当たり300kcalのエネルギー消費は、1万歩に相当する。」
ここで登場する”海外の文献”はPhysical activity, all-cause mortality, and longevity of college alumni(N Engl J Med 1986;314:605-613)の事です。
1962年に35歳~72歳の方をエントリーして12~16年フォローした研究です。
運動量が多いほど、死亡率が低かったという結果がでており、週当たり2000kcal以上の運動量があった男性は非活動的だった男性より死亡率が1/3~1/4程度低かったと表現されています。
この研究の結果をグラフ化している論文の結果を添付します。
活動量が多ければ多いほど、死亡率が下がる傾向があります。
ただし、週当たり3500kcal以上カロリー消費をする人達は逆に死亡リスク(mortality risk)が上がっていますので、運動しすぎにならないように、確かに週当たり2000kcal以上のカロリー消費が目安になっているのかもしれません。
ただし、厚生労働省の見解には1つ注意点があります。
週当たり2000kcal以上のカロリー消費に該当する歩数の計算の際に、”体重60kgの者が、時速4km(分速70m)、歩幅70cm”の場合とされているので、その設定から大きく外れている人は、週当たり2000kcal以上のカロリー消費のために必要な歩数も大きく変わります。
例えば体重が軽い人は、消費エネルギー量は少なくなるので、60㎏の人と同じだけのカロリーを消費するには長時間散歩をする必要があります。
なので、そもそも1万歩歩いた時の消費カロリーは人それぞれですので、参考程度にしておくのがよさそうです。
1日8000歩の由来
厚生労働省が発表した「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)(2013)」にて18歳から64歳の男女に対して、1 日8000歩に相当する身体活動が推奨されており、1日8000歩の由来だと考えます。
それでは、8000歩とされた根拠は?
「運動基準・運動指針の改定に関する検討会 報告書(2013)」では以下のように説明されています。
そもそも、「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)(2013)」における18歳から64歳の男女に対しての運動量の推奨は
「強度が 3 メッツ以上の身体活動を 23 メッツ・時/週。」ですが、
「歩数と中強度以上の身体活動量との関係について活動量計を用いて検討した複数の研究から、23 メッツ・時/週は約 8,000~10,000 歩/日に相当することが示唆されている。」
と説明されています。
引用されている研究は以下の通りで、2010年の健康日本21の発表から研究が進んでいるようです。
- 加速度計で求めた「健康づくりのための運動基準 2006」における身体活動の目標値(23 メッツ・時/週)に相当する歩数. 体力科学 61:193-199.(2012年)
- 健康づくりのための運動基準 2006 における身体活動量の基準値週 23 メッツ時と 1日あたりの歩数との関連. 体力科学 61:183-191.(2012年)
- 健康づくりのための運動基準に則した日常生活活動量評価における歩数の妥当性. 福岡大学スポーツ科学研究 39: 101-111.(2010年)
2023年に発表された京都大とカリフォルニア大学の研究では、週に1日8000歩を達成するだけでも死亡リスクが減るという結果ができいますので、こちらも参考にして下さい。
高齢の方への1日の歩数の推奨は?
1日8000歩というのが、18歳から64歳の男女に対しての運動量の推奨である事はわかりました。
65歳以上へは「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)(2013)」では以下のように運動量の推奨を行っています。
強度を問わず、身体活動を 10 メッツ・時/週行う。具体的には、横になったままや座ったままにならなければどんな動きでもよいので、身体活動を毎日 40 分行う。
ここでは、基準の歩数については設定されていません。高齢になると歩幅や歩行スピードの差が大きいですし、基準を設けるのは困難なのかもしれません。
不動が健康に良くないので、とりあえず、一日40分動いてねって感じですね。
加えて、基準設定の考え方として「本基準は、高齢者の身体活動不足を予防することに主眼を置いて設定しているが、高齢者においても、可能であれば、3 メッツ以上の運動を含めた身体活動に取り組み、身体活動量の維持・向上を目指すことが望ましい。」とされています。
ある程度の運動強度が必要だが、高齢者は体が弱っているだろうからと気を使われている印象を受けます。
2013年時点の65歳よりも現在の65歳の方が元気ですし、10年以上前の推奨はすこし古いかもしれません。
2021年に出されたWHOのガイドラインでは、65歳以上の人は1週間で150-300分の中等度の運動 もしくは 75-150分の強度の運動(もしくはその組み合わせ)が必要であるとされています。最新の推奨としてはこちらを参考にする方がいいのではないかと思います。
(因みに、WHOのガイドラインでは、18歳ー64歳の人への運動量の推奨も、1週間で150-300分の中等度の運動 もしくは 75-150分の強度の運動(もしくはその組み合わせ)です)
日本の「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)(2013)」は少し古いので、2021年のWHOのガイドラインに準じて、1週間で150-300分の中等度の運動 もしくは 75-150分の強度の運動(もしくはその組み合わせ)を目標にするとよいのではないでしょうか。
ちなみに、健康日本21(第二次)の期間は2013年度から2023年度の11年間とされており、現在厚生労働省が第三次健康日本21を作成中です。
そこには、歩数の目安についても登場するかもしれませんので、またご紹介します。
心臓病の方への1日の歩数の推奨は?
年を重ねると、心臓病にかかってしまう事もあります。心臓病になると心臓の機能が弱くなり、運動の推奨が変わってくる可能性がありますよね。
心臓病への運動療法の効果は科学的に証明されていて、心臓リハビリテーションという地理量が強く推奨されています。
どのように、心臓リハビリテーションを患者さんに施すかという事の指針である、ガイドラインに、患者さんの好ましい運動量についても記載があるので、参考にします。
日本循環器学会により2021年に出された心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインによれば、
運動の強度の決め方はいくつかありますが、簡単な方法として自覚的運動強度を参考にする方法がありますが、適切は運動強度は”ややきつい”~それよりも少し軽いレベルになります。快適に会話しながら行える運動強度という目安も記載されています。
運動の持続時間は最終的には20-60分を目標とされています。
頻度としては、上記のような中強度と低強度の運動を組み合わせるのであれば、1週間に5回以上を推奨されています。
中強度から高強度の運動を組み合わせる場合は1週間に3~5回です。
歩数についての基準はありません。体力や心機能の差により歩幅や歩行スピードの差が生じますし、基準を設けるのは困難なのかもしれません。
WHOのガイドラインの、”1週間で150-300分の中等度の運動 もしくは 75-150分の強度の運動(もしくはその組み合わせ)”とほぼ同じ運動量になっています。
体力や心機能の差による中等度や強度というものは、人それぞれですが、その人に合った運動を一定時間確保する事は誰にとっても良い事なんでしょう。
まとめ
- 1日1万歩の基準は厚生労働省の健康日本21(2010年作成)に由来すると考えれるが、”体重60kgの者が、時速4km(分速70m)、歩幅70cm”の場合であるので、参考程度がよいのでは
- 1日8000歩の基準は、「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)(2013)」における、18歳から64歳の男女に対しての運動量の推奨。
- 65歳以上の人や心臓病の人への1日の歩数の推奨はない。
- 体力や心機能の差により歩幅や歩行スピードの差が生じますし、基準を設けるのは困難なのかもしれない。
- 2021年作成のWHOのガイドラインの、”1週間で150-300分の中等度の運動 もしくは 75-150分の強度の運動(もしくはその組み合わせ)”65歳以上の人や心臓病の人への運動の基準として参考になる
- 体力や心機能の差による中等度や強度というものは、人それぞれですが、その人に合った運動を一定時間確保する事が重要