ずぼら運動学

【医師解説】握力と寿命の関係。弱くなった時の対策は?握力年齢の自動計算フォーム付き

病院外で心臓病を患う方に運動指導をしています。そこでは握力を体力の指標として使っています。

先週握力がなぜ重要かという質問を受けました。

今日は握力が我々の健康、特に寿命にどのように影響を及ぼすかについて、科学的な見地から解説します。

握力と寿命の関係

握力と寿命、一見するとあまり関連性がないように思えますよね。

しかし、実はこれらは密接に関連しています。握力が強い人は全般的に長生きし、心疾患やがんなどの重大な健康問題のリスクが低いことが、多くの科学的な研究から明らかになっています。

14万人以上の成人を対象に握力を測定し、その健康影響を調査した研究があります。その結果、握力が弱い人々は早く亡くなってしまう事、特に心血管の病気によってなくなってしまうリスクが高いことが明らかになりました。(Lancet 2015;386:266-73

これは、心臓病の方に限っても同様で、心不全の人でも握力が低いと、早くなくなってしまうリスクが高くなることが示されています(J Card Fail. 2023;29:911-918

握力と寿命が関係するメカニズム

では、なぜ握力が単に腕の筋量や筋力だけでなく、寿命にまで関係するのでしょうか?

これは握力が我々の全体的な筋肉の力、そして体の健康状態を反映するからです。

握力がある人は、腕の筋肉がある人です。

腕の筋肉がある人は、全身にも筋肉がある人です。

全身に筋肉がある人は、体力がある人で、長生きする人なんです。

弱い握力は、全体的な筋肉量の減少を示す可能性があります。そして、これは加齢による筋肉量や筋力の低下を示す可能性があります。

最近、話題になっているフレイルの基準にも握力が低い事は採用されています。

フレイルの指標の1つである

昨今話題になっているフレイル。

これは要介護状態の手間の状態であり、ここで対応すれば、体の機能を戻すことができる可逆的な状態であるとされています。

ですから、フレイルの状態に気が付き、対応する事が、いつまでの元気で自分の力で生きくためには重要です。

そのフレイルの基準の1つとして握力が使用されています。

具体的には、男性で握力<28kg、女性で握力<18kg であればフレイルの可能性が上がります。

参考に日本版フレイルの基準はこちらです。

項目評価基準
体重減少6か月で、2kg以上の(意図しない)体重減少
筋力低下握力:男性<28kg、女性<18kg
疲労感(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする
歩行速度通常歩行速度<1.0m/秒
身体活動1.軽い運動・体操をしていますか?
2.定期的な運動・スポーツをしていますか?
上記の2つのいずれも「週に1回もしていない」と回答

年齢別の握力の平均

スポーツ庁が毎年、体力・運動能力調査を行っており、その中で各年代の握力の全国調査が行われています。

この値を参考に現在の自分が同年代の中で握力が高いのか低いのかを判断するすることができます。

令和3年度体力・運動能力調査(スポーツ庁)より引用>

 握力(kg)
年齢男子 女子 
 標本数平均値標本数平均値
20-2457445.0648326.84
25-2953746.4040228.06
30-3455746.9641528.06
35-3956146.5651728.98
40-4463246.6156228.67
45-4965245.6455228.54
50-5452745.5846927.72
55-5947244.2145126.99
60-6441242.4047126.36
65-6941239.3856924.85
70-7447637.2569423.78
75-7935534.9344122.32

握力年齢の自動計算フォーム

上記の日本人のデータを用いて、あなたの握力が何歳のレベルであるのかがすぐにわかるようなフォームを作ってみました。

年齢と利き手の握力を入れると、握力年齢を自動で計算します。

握力の簡単な目安

とは言え、握力計なんて家にありませんよね。ですので、今回は日常生活の行動で握力を推測するのに役立つ研究結果を紹介します。

高齢者入院患者にアンケートを行い、ペットボトルの蓋を開けられないと答えた人の平均の握力は9.4㎏だったという報告があります(高齢入院患者におけるペットボトルの開栓に必要な握力

他に、握力が低下して皆さん困っている事としては、牛乳パックを開ける事やハムの真空パックを開ける事などがあるようです。(高齢者が生活していく上で不便となるもの5選

因みにりんごをつぶせる握力は70-80㎏と言われているようです

対策は?

握力というよりも全身の体力の低下が問題です。

ですので、握力が低くなってきたときの対策は、単に握力だけを鍛えればいいわけではなく、全身の運動を行いましょう。

基本的には、WHOが推奨しているように、1週間で150-300分の中等度の有酸素運動に加えて、中等度以上の筋力トレーニングを週に2回以上行ってください。

ここでいう中等度とは、中等度とは脈拍が上がり呼吸が早まる運動強度の事です。

運動強度の事については、以下の過去のサイトもご参照下さい。

食事も大事ですよ。

筋トレの効果を高めるためには「タンパク質」と「糖質」の摂取が重要です。

腎臓の機能が低下していると指摘されている場合は、主治医とご相談してくださいね。

人は忘れる生き物です。それは仕方ない事です。

だから、知識を定着させ、行動につなげるためには工夫が必要です。

いろいろな形で情報に触れる事で、知識は定着していきます。

本サイトでは、他にも心臓病に関わる医学的な知見がまとめられているので、他の記事も読んで頂くと、知識の定着に役立つと思います。

合わせてご参照下さいね。

まとめ

  • 握力は簡単に計測ができる身近な指標ですが、寿命に関わっています
  • それは、全身の筋肉量や健康状態を反映しているからです
  • 年齢を重ねても握力が弱くならない事を一つの目安にして、全身の運動を定期的に行い健康維持を心がけてください。

今日も、健康であなたらしい1日をお過ごしください。

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