サルコペニアとは
厚生労働省の令和3年度の調査によると、日本人の平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳となっています。年々平均寿命が延長し、現在日本の高齢者の割合は28.6%(2020年)と報告され、今後も更なる高齢化が進んでいくと予想されています(厚生労働省HPより)。
ヒトの筋肉量は30歳代から年間0.5~1%ずつ減少し、80歳ごろまでに約30〜40%失われると言われています。この加齢による体力・筋力の低下が、日常生活に悪影響を及ぼしてしまうため、その対応が非常に重要とされています。
サルコペニアは、加齢に伴う筋肉の減少、身体機能の低下を表した概念になります。ギリシャ語のsarx(筋肉)とpenia(喪失、不足)を合わせた造語、1989年にRosenbergによって提唱されました。
サルコペニアの原因は以下のように分類されています。
- 一次性(原発性)サルコペニア:加齢が原因となる(加齢以外に要因がない)もの
- 二次性サルコペニア:加齢以外の要因によるもの
そして二次性サルコペニアは、さらに以下の3つが原因とされています。
- 病気が原因となるもの:臓器不全や炎症性疾患、悪性腫瘍、内分泌疾患など
- 活動量の減少が原因となるもの:身体不活動、ベッド上安静、無重力状態など
- 栄養不足が原因となるもの:食事が摂れない、消化・吸収障害、食欲不振など
近年は加齢だけでなく、がんや心臓病などが原因となって、より早期にサルコペニアとなってしまうことがわかっており、今では「骨格筋力の加齢に伴う低下に加えて、筋力または身体機能が低下した状態」と定義される“疾患”という位置付けになっています。
つまり、筋肉の減少した状態は、ある種の“病気”とみなされているのです。
サルコペニアの診断基準
日本でのサルコペニアの診断基準は下の図のようになっています。
正確に骨格筋量を測定するには、専用の機械が必要となります。そのため、専門の機械がない場合でも、左側のフローシートに沿ってチェックすることで、サルコペニアの可能性があるかどうかが判定できます。
下腿周囲長(ふくらはぎの太さ)は、メジャーを使用して、ふくらはぎの最も太いところを測定します。男性では34cm未満、女性では33cm未満の場合、身体機能のテストを行います。握力、椅子立ち上がりテストについては、こちらの記事を参考にしてください。
上記の方法よりも、簡単にスクリーニングする方法が「指輪っかテスト」です。やり方は非常に簡単で、両手の親指と人差し指で輪っかを作り、ふくらはぎの一番太い部分が囲めるかどうかを確認するだけです。囲めない場合はサルコペニアの危険性は低く、隙間ができるとサルコペニアの危険性が高くなります。
ただし、心臓病の方で、体に余計な水分がたまり、足が浮腫んでいる方もいます。その場合、ふくらはぎの太さが浮腫んでいない状態よりも太くなっている可能性があります。Kamiyaらは、高齢の心臓病の方では、ふくらはぎの太さではなく、腕の太さの方が予後を予測する因子となる、と報告しています。
サルコペニアと診断される人はどれくらいいる?
日本人におけるサルコペニア有病率は研究によって異なりますが、1000人以上を対象とした研究結果をもとにすると。6−12%と考えられています(サルコペニア診療ガイドライン2017年版)。
それに対し、Zhangらの報告によると、心不全の方でサルコペニアと診断される方は34%となっており、心臓病を保有している方の方がサルコペニアと診断される割合が多くなっています。
また、筋肉量や運動耐容能(=体力)は生命予後と関係が深いことが知られています。また、Von Haehlingらは、外来通院中の心不全患者において、心臓が血液を送る機能などと同様に、サルコペニアが死亡を予測する因子であることを報告しています。
予防と治療
サルコペニアの対策・治療の基本は、『運動』と『栄養』です。
入院をきっかけに身体機能が低下することもありますし、退院後も適切な強度での運動を行っていないと、身体機能はどんどん低下していきます。
Konoらは高齢心不全患者の体力を6分間歩行試験で評価し、その関連要因について報告しています。6分間歩行試験についてはこちらも参考にしてください。
その結果、サルコペニアと診断されている人は、膝を伸ばす筋力と歩行距離が関連している、としています。また、Jewissらは筋力トレーニングを行うことで、6分間歩行距離が改善したことも報告しています。つまり、サルコペニアのような筋肉量が低下している場合は、筋力トレーニングを行うことが重要です。
筋力トレーニングを普段の生活にすぐに取り入れることが難しくても、まずは座りっぱなしの時間を減らすことから始めるだけでも効果を得られます。以下の記事も参考にしてみてください。
そして、適切な栄養を摂ることで筋力トレーニングの効果を高めることができます。特にタンパク質は、体重1kgあたり1g /日以上摂取することが勧められています。以下の記事に簡単にまとめています。
まとめ
サルコペニアは、筋肉量が減少し身体機能が低下している状態を表します
心臓病の方はサルコペニアである可能性が高いと報告されています
サルコペニアの予防には、適切な「運動」と「栄養」が必要です