ずぼら栄養学

【医師監修】効果的な痩せ方~肥満症診療ガイドラインより〜

肥満は心臓病や、心臓病の原因となる高血圧や糖尿病を引き起こす可能性のある状態であることはよく知られています。そして2024年2月に厚生労働省が承認した、肥満症に対する新しい治療薬が販売されました(注:使用できる方は一定の基準を満たしている人のみとなっています)。

私も、普段の診療では比較的BMIが高めの心臓病の方に運動指導を行うことが多いです。そういった方の多くは主治医から「体重を減らすように」、と言われているのではないでしょうか。

今回は、肥満症診療ガイドライン2022を参考に、肥満やメタボリックシンドロームが、どうして心臓病にとって悪者なのか、どのように体重を減らしたらいいのか、について解説します。

“肥満”と“肥満症”は似ているけど少し違う

日本肥満学会によると、“肥満”とは、脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、体格指数(BMI=体重〔kg〕/身長〔〕)≧25のもの、と定義されています。

肥満度の分類は以下の表のようになっています。

肥満症診療ガイドライン2022より引用

そして、肥満と似た言葉に“肥満症”もあります。肥満症は、肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする疾患、と定義されています。つまり、肥満症は病気の一つ、とみなされているのです。

肥満に関連する健康障害には以下のものが挙げられます。

肥満症診療ガイドライン2022より引用

このように、肥満に起因する健康障害には心臓病と縁の深いものが多く含まれています。Yamadaらは、65歳の神戸市民10,852人の肥満度と糖尿病、高血圧、脂質異常症を保有する危険性について調査した結果を報告しています(下表)。この報告は普通体重の方を基準とした時に、数字が大きければ大きいほど各疾患になる危険性が高いことを示しています。

筋肉量が減少した肥満 “サルコペニア肥満”

最近では上記の肥満に加えて、筋肉量が低下した状態であるサルコペニアを合併した、“サルコペニア肥満”の危険性についても議論されています。

サルコペニアについてはこちらも参考にしてみてください。

このサルコペニア肥満は、サルコペニアや肥満だけの人と比べて、糖尿病、高血圧、脂質異常症、メタボリックシンドローム、骨粗鬆症になる可能性が高いことが報告されています(AJ Binu:Heart Int.2023)。

Wei:Frontiers in Endocrinology,2023より改変引用

メタボリックシンドローム

心臓病と肥満は密接な関係があるのですが、それ以上に心臓病との関係性が深いのが、“メタボリックシンドローム”です。いわゆる“メタボ”です。

メタボリックシンドロームは、内臓脂肪の蓄積に加え、高血糖、脂質代謝異常(高トリグリセライド血症、低HDL-C血症)、血圧高値のうち2つ以上を合併した状態を指します。そして、内臓脂肪蓄積の指標として、ウエスト周囲長(臍周りの長さ)が、男性85cm以上、女性90cm以上とされています。

肥満症診療ガイドライン2022より引用

メタボリックシンドロームの診断で重要なものは“内臓脂肪”です。脂肪は主に内臓の周りにたまる内臓脂肪と、皮膚の下にたまる皮下脂肪に分けられます。内臓脂肪は、エネルギーを蓄えたりする役割を持つ反面、多くたまりすぎると血管の中に脂肪を多く放出し、炎症や動脈硬化を引き起こすとされています。そして、内臓脂肪の増加は、代謝異常の数と関連が強いと報告されています。また、BMIは25以下の肥満ではない人でも、内臓脂肪がより多くたまっている人の方が、冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症など)になりやすい、という報告もあります。ちなみに男性と比べて女性の方が皮下脂肪が多いことがわかっているため、診断基準のウエスト周囲長に男女差が設けられています。

心臓病との関係としては、メタボリックシンドロームの診断基準には高血糖、脂質異常、血圧高値が含まれているため、メタボリックシンドロームと診断されている人はそうでない人の約2倍心臓病になりやすい、と言われています。

治療の基本

肥満症とメタボリックシンドロームの治療の基本は食事療法と運動療法による減量と生活習慣の改善です。体重を減らすことで、皮下脂肪よりも内臓脂肪が減少しやすいこともわかっています。

そして、3〜5%の体重減少で高血圧、高尿酸血症、糖尿病、脂質異常症、肝機能異常がそれぞれ改善すると報告されています。体重減少が5~10%であった場合はさらに大幅な改善が確認されています。このような研究結果を踏まえて、肥満症診療ガイドラインにおける肥満症の治療目標は「現在の体重から3〜6ヶ月で3%減少」としています。

肥満症の治療を適切に行うことで、健康障害の危険性を軽減し、生活の質を改善することが重要になります。

肥満症診療ガイドライン2022より引用

食事療法

減量のためには摂取するエネルギーの量を制限することが最も有効で確立された方法とされており、以下の計算式で算出されたカロリー以下にすることが推奨されています。

1日の摂取エネルギー量=25kcal × 目標体重(kg) 

ここでの目標体重は年齢などによって調整する必要があります。65歳以下であればBMIが22となるような体重を目標としますが、65歳以上ではBMIが低いと死亡率が上昇することも報告されているので、BMI:22〜25を目標とします。また、食事内容も糖質の摂取をゼロにすることや、タンパク質を極端に減らすといった極端なものにすることは避けるようにしましょう。

適切な食事については、医師や管理栄養士と相談することをオススメします。

運動療法

運動療法には体重減少や心臓病などの病気の発生率を低下させる効果があります。特に身体活動量を増やすことで、よりその効果が高まることもわかっています。下の図はその関係性を表したものになります。A・B・Cは数字が1より大きい場合は危険性が高いことを示しています。Dはアメリカで行われた調査結果で、4年間の追跡期間の間に1週間あたりの身体活動量の変化(METs×時間)と体重の変化(単位:ポンド、1ポンド=約450gに相当)の関係を表しています。

肥満症診療ガイドライン2022より引用

肥満症診療ガイドライン2022では、肥満症に対する運動療法のプログラムは下記のように記載されています。

肥満症診療ガイドライン2022より引用

肥満症の方は血圧高値や高血糖などを合併している状態ですので、運動を開始する前に一度主治医と相談し、安全に運動ができる状態なのかどうかを確認してもらうことをお勧めします。また、運動を継続していく中で膝関節痛や腰痛などの整形外科的な問題が出ることも想定されますので、そのような症状が出てきた場合は整形外科の受診を検討するようにしてください。

運動療法に関係する記事もいくつか公開していますので、こちらも参考にしてみてください。

まとめ

  • 肥満や肥満症、メタボリックシンドロームは心臓病と密接な関係があります。
  • 治療の基本は、食事療法と運動療法です。
  • 食事、運動のいずれも一度専門家に相談し、効果的な方法を指導してもらった上で実践していきましょう。

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