心臓病や生活習慣病(高血圧、糖尿病など)の有無に関わらず、運動が推奨されていることは間違いありません。
より効果を高めるためには、適切な運動強度で、しっかりと時間を確保し、習慣化する必要があります。
WHOによれば、全世界の成人・高齢者へ中等度の運動強度の運動を週に150-300分行うことが推奨されています。
心臓病の方の運動強度の目安としても、心大血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインでは、“中等度の運動強度”が推奨されています。
でも、具体的にはどれくらいの強度になるか、少しわかりづらい表現ですよね。
今回は、中等度の運動強度がどれくらいの強度になるかをまとめてみました。
適切な運動強度を守り、安全で効果的な運動習慣を身につけましょう。
中等度の強度の決め方
中等度の運動強度の決め方に複数あります。
例えば、心大血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインでは、有酸素運動に対する運動強度は以下のように決められています。
今回は、5つの主な方法について紹介します。5つのうち4つは自宅でもできるものになりますのでぜひ参考にしてください。
①心肺運動負荷試験を使う決め方
病院の中で特殊な機械を用いて運動中に吐く息の中の成分の分析を行う検査です。心臓・肺・筋肉の活動などを総合的に評価することが可能で、どれほどの酸素を体が使ったか(酸素摂取量:VO2)が体力の指標となります。
これ以上運動できないという最大の運動強度まで運動してもらいますので、最大脈拍の計測も可能です。
しかし、相当つらい検査ですし、その後倒れてしまいケガをする方もいます。
心肺運動負荷試験を行なっている施設は決して多くないため、より簡単に運動強度を決めることができると、普段の運動習慣に活かしやすいですよね。
ただし、あくまで簡易的な方法ですので、心臓病の悪化のサインを見逃さないようにする必要があります。まずは軽い強度から開始し、少しずつ調整するようにしてください。
運動のやり過ぎのサインについては、以下の記事を参考にしてください。
②目標とする心拍数を計算で決める方法
運動した時の最も高い心拍数と、安静にしている時の心拍数をもとに、運動強度を決める方法があります。
これを、心拍数予備能(Heart rate reserve:HRR)と言います。この心拍数予備能に係数をかけて、以下の計算式のように運動時の目標心拍数を決定します。
Karvonenの式:(最高心拍数―安静時心拍数)×k+安静時心拍数
この式の“k”は心臓病の重症度に合わせて調整する必要があります。また、運動する際は安全性が最優先ですので、まずは低強度から開始し、少しずつ調整するようにしましょう。
以下に“k”の目安を示しますが、ご自身で判断せず、医師や心臓リハビリテーションの知識・経験のある理学療法士などに相談して決めることをオススメします。
- 合併症のない、若い人の心筋梗塞など → k = 0.6
- 高齢の心筋梗塞や合併症のある方など → k = 0.4 ~ 0.5
- 心不全の方 → k = 0.3 ~ 0.5
運動した時の最も高い心拍数は、心肺運動負荷試験で十分に負荷をかけた結果から計算することが最も理想的ではあるのですが、先ほど述べたようにどこでもできる検査ではありません。
最高心拍数を簡単に求める方法としては、“220−年齢”で計算することができます。
例えば、70歳の方であれば、“220―70=150”となり、最高心拍数を150回/分として計算します。
簡単な計算フォームを作成しました。Karbonenの式を用いて運動強度の設定をしてみて下さい。
この式を使用する際、注意点がいくつかあります。
- 心拍数の変動には個人差があるため、心臓病の状態によっては負荷が強くなりすぎる可能性があること
- ペースメーカーを植え込みされている人、心房細動と診断されている人では心拍数で運動強度を決めることが難しいため適していないこと
- β遮断薬を内服している人は心拍数が上がりにくいため、運動強度が強くなってしまう可能性があること
運動強度が強すぎると、かえって心臓病を悪化させる可能性があるので、注意が必要です。
スマートウォッチを使用すると運動中の心拍数を簡単に測定することができます。おすすめのスマートウォッチについては以下の記事を参考にしてください。
③自覚的な疲労感に合わせて調整する方法
ペースメーカーを植え込みしている方や、心臓細動の方など目標とする心拍数が決められない方は、自覚的な疲労感に応じて運動強度を調整することが勧められています。
“Borg scale”という以下の表をもとに、11(楽である)〜13(ややつらい)を目安に調整しましょう。
Borg scaleの最大の欠点は、個人によって差が非常に大きい点です。
運動に自信がない人、心臓病の症状が不安な方は疲労感を強く訴えることがありますし、反対に運動に自信がある人、負けず嫌いな性格の方などは過小評価となってしまうことがあります。
その場合は先ほど述べた心拍数での運動処方や、この後に述べる方法を併用することをオススメします。
④快適に会話ができる強度で調整する方法
運動中に30秒程度の文章を読ませ、その際の息切れの度合いで運動強度を決めることが可能です。これを“トークテスト”と言います。
この方法では、文章を音読している際に、息が上がって音読できない場合には運動強度が強すぎ、反対にまったく問題なく音読できる場合は運動強度が軽すぎると判断します。
息が適度に切れている運動強度は、心肺運動負荷試験を行った際の、心臓に負担がかかり始めるくらいの強度におおよそ一致している、と言われています。
また、普段と同じ強度で運動を行っているにも関わらず、いつもより息切れが強いと感じた場合、運動強度を弱める必要があります。日々の体調によって運動強度を微調整する目安にすることも可能です。
ただし、この方法に慣れていない場合は運動強度の調整が難しい場合があるので、まずは経験のある医師や理学療法士の監視下で、適切な強度での運動を行い、その時の息切れの具合を参考にすることをオススメします。
⑤METs表を用いて調整する方法
静かに座っている状態を1として、それぞれの動作がどれくらいの負荷になるか、を表した指標が”METs(メッツ)”です。
メッツについてはこちらの記事を参考にしてください。
WHOのガイドラインなどでは、中等度の運動強度を3〜6メッツとしています。
これは早歩きや、軽いジョギング、テニスなどに相当する強度です。
また、厚生労働省が発表した、身体活動基準2023では、週15メッツ・時以上を目標にすることが推奨されています。
身体活動基準2023については、こちらで簡単にまとめています。
ただし、メッツでの運動強度を決めるには、Borg scale同様、個人によって差が大きいことが欠点になります。
普段からスポーツなどをしているような体力のある方にとっては、3〜6メッツの強度では弱すぎる可能性があります。一方で、運動習慣のない方や心臓病が重症の方にとっては、3〜6メッツでは運動強度が強すぎる恐れがあります。
つまり、メッツだけでの運動強度の調整は行わず、メッツでおおよその運動強度を確認した上で、心拍数の変化をみたり、Borg scaleと合わせて休憩時間を調整することをオススメします。
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まとめ
運動強度の決め方は様々あります。①以外は自宅でも参考にできるものになります。
②心拍数での運動強度の調整は、一度心臓リハビリテーションの経験のある、医師や理学療法士などに相談して、運動強度を調整することをオススメします。
また、定期的に今の運動強度で問題がないか、専門家に確認してもらうことも重要です。
日々の体調に合わせて、安全かつ最大の効果を得られるように運動強度を決めましょう。