ずぼら運動学

【医師監修】筋肉の“質”と生活習慣病 〜霜降り状態の筋肉はキケン〜

心臓病の方にとって、運動の重要性はいろいろなところで言われています。有酸素運動だけでなく、筋トレも欠かすことのできない運動です。

そして、筋肉の強さ=“筋力”と筋肉の量=“筋量”のいずれも心臓病の方が長生きできるかどうか、と関係性が強いことも知られています。

そして、最近は筋肉の“”に関する報告もいくつか報告されるようになっています。

同じような体格の方でも、非常に健康で病気知らずの方もいれば、糖尿病を代表とする生活習慣病を患っている方もいます。今回は筋肉の質と生活習慣病の関係についてまとめます。

日本人の体型変化

厚生労働省の調査結果によると、日本人の男性では33.0%、女性では22.3%の方が、肥満(BMI≧25)であると報告しています。下の図は肥満者の割合の有病率の推移を、性別ごとにまとめたものになります。女性は概ね横ばいで推移しているのですが、男性は徐々に増えてきており、特に40歳代から60歳代の方が多いようです。

国民健康・栄養調査(令和元年) 結果の概要より引用

肥満と心臓病の関係については、こちらを参考にしてみてください。

そして肥満の原因となるものといえば、“脂肪”です。脂肪と言われると内臓の周りにたまる“内臓脂肪”と、皮膚の下にたまる“皮下脂肪”がよく知られていますよね。実はこの内臓脂肪と皮下脂肪だけでなく、第三の脂肪と言われる“異所性脂肪”が非常に注目され始めました。

異所性脂肪とは

内臓脂肪や皮下脂肪は、エネルギーの貯蔵庫としての役割や、異物が体に入るのを守るような役割があり、健康を保つために重要な脂肪です。

それに対し異所性脂肪とは、本来たまるはずのないところにたまる脂肪のことを指します。内臓の周りや皮膚の下だけではためきることができなくなった状態です。代表的なものといえば、肝臓に脂肪が蓄積された状態=脂肪肝が挙げられます。

そして、脂肪は筋肉にも蓄積することもわかっており、この筋肉に溜まった脂肪=“筋内脂肪”が筋肉の質の低下と強く関係していることが報告されています。筋内脂肪のわかりやすいイメージは“霜降り肉”です。食べると非常に美味しく、高級なものも多い霜降り肉ですが、人間の体にできてしまうと非常にキケンな状態であり、早急に改善する必要があります。

なぜ筋内脂肪が体に悪いのか

脂肪が肝臓や筋肉にたまると、その臓器の機能を低下させることがわかっています。

筋肉に脂肪が貯まると、筋力の低下や歩行能力の低下につながることも、多くの研究結果から報告されています。筋肉量の低下、身体機能の低下はフレイルやサルコペニアに繋がり、心臓病の方の寿命を短くしてしまう危険性があります。

フレイル、サルコペニアについてはこちらの記事も参考にしてみてください。

また、筋肉に脂肪が蓄積されると、膵臓から分泌されるインスリンの効きが悪くなる(インスリン抵抗性)こともわかっています。インスリンは、血液の中の糖分を体中の細胞の中に取り込みエネルギーに変える働きを持つ物質です。このインスリンの作用が低下した状態が糖尿病であり、糖尿病は心臓病を悪化させる原因の一つです。

糖尿病についてはこちらを参考にしてください。

このように身体にとって多くの悪影響を及ぼす筋内脂肪ですが、どれくらいあるのかを確認するためにはCTやMRI、エコー検査を行う必要があります。ただ、24時間安静にしていると筋肉の中に脂肪がたまり、インスリンの効きを悪くしてしまうことが動物実験で明らかになっている(Kakehi S et al.Am J Physiol Endocrinol Metab. 2021 Dec 1;321(6):E766-E781. doi: 10.1152/ajpendo.00254.2020.)ため、普段あまり運動していない方は筋肉の中に脂肪がたまっている可能性が高く要注意です。

筋内脂肪と心臓病の関係

Huynhらは、筋内脂肪と心不全の発生率についての調査結果を報告しています。約2400人の心不全と診断されたことのない70歳代の方を、約12年間続けて調査した結果、筋肉の中に脂肪が多くあった人は、脂肪が少なかった人の1.34倍心不全になりやすい、と報告しています。

また、Yoshidaらは筋内脂肪が多い人と少ない人の間で、心臓病が原因での有害事象(死亡・入院)の発生率の関係を調査しています。その結果、脂肪が多い人ほど体力の指標(最高酸素摂取量)が低く、入院や死亡といった有害事象が多く起きることが分かりました。

改善するには食事と運動がカギ

筋肉にたまる脂肪を減らすには、やはり適切な食事適度な運動が重要です。

食事量が多かったり、脂肪分が多い食事を好んで食べていると、内臓や皮膚の下にためきれなかった脂肪が肝臓や筋肉にたまってしまいます。普段の食事内容を見直すことが重要ですので、一度医師や管理栄養士に相談してみましょう。

食事だけでなく、運動を組み合わせることでより高い効果が得られることもわかっています。心臓病の方に対する適切な強度の運動を行うことで、筋内脂肪を減らすことが可能です。座りっぱなしの時間を減らしたり、階段を使うようにするだけでも心臓病の予防効果があります。

まとめ

  • 筋肉に脂肪がたまった状態は、心臓病になる可能性を高めてしまいます。
  • 適切な食事と、適度な運動を継続し、質の良い筋肉を手に入れましょう。

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